2006年08月17日

「渾名の真相」 2

 さて、この問題の中で僕が最も怪しいって睨んだのは、やっぱり被害者の渾名の件だった。
 一体、「貯金箱」なんて渾名は、どういう人が貰える名前なんだろうか。
 先ず最初に考えられるのは、名前が「貯金箱」に似ている人って事だ。僕の通った中学校にいた、鳥巣先生の愛称は「トリスタン」だった。これは、アーサー王の円卓の騎士で、ブルターニュの伝説上の人物の名だ。同じ中学の時の叉井先生のニックネームは、「徴税人」。天主教の聖人に、「徴税人のマタイ」という人物がいる。お杉のハンドルは「ビッグフット」だが、これは名前のユキオ、雪男が「ユキオトコ」と読める事に由来する。こんな感じで、「貯金箱」って付けられたんじゃないだろうかって、そう僕は考えたんだ。千代木葉児とか、なんとかっていう名前でね。だけどこれじゃ、学生が誰も由来を知らないっていうのはおかしいよね。独身であるし、苗字の変更も考え難い。尤も可能性としては、「貯金箱」さんがかつて婿養子か何かで一時そういう名前で、離婚などの理由で、名前が又変わったっていうのはあるとは思う。だけど、これは可能性が随分と低そうだ。多分違うって僕は考えた。第一、僕は「貯金箱」に似た、現実にありそうな名前を、思い付く事ができない。千代木っていうのは、とんでもなく苦しいよね。
 次に僕が考えたのは、見た目が貯金箱に似てたって事だ。貯金箱ってのは、下の方に硬貨が貯まって、上の方はスカスカだよね。だからこれは恐らく、お腹が出っぱって頭は空っぽって、そういう意味の渾名って事になるだろう。もしかしたらお腹じゃなくって下半身て意味かも知れないって思った。そう、高尚な考えはスカスカで、下半身ばっかりが太っている。「被害者は、学生に手を出すという噂が一般的だった」っていうから、これは何だかありそうだぞって、そう思った。だけどはたして、大学生がこんなネーミング方法を本当に用いるものだろうか?それにもし仮に、これが正解であったとしても、僕には事件との関連性は、まったくわかんないって、そう思った。
 次に僕が考えたのは、性格などの特徴が、「貯金箱」に似ているって事だ。ストラップさんの名前の由来などは、ここに該当するだろう。具体的には、貯金が趣味だったとか、常に貯金箱を持ち歩いていただとかっていう、金銭にまつわる渾名だっていう線だ。守銭奴だったのかも知れないし、ただ単純に、何かを溜める癖があったのかも知れない。貯金箱の蒐集家だったのだろうか?しかしそれならもっと相応しい渾名ってもんがあるだろうって思った。だから多分これは違うだろうって感じた。
 では、僕の考えをまとめよう。って本来は言いたいけど、まとめるも何も、僕には今語った様に、まるで事件について分析できなかった。一体どういう事件なのか、まったくさっぱりだったんだ。僕がこの件の解答を知る為には、この翌年の二月、岱明町の「キングスガンビット」で、稲葉に相談するまで、待たなければならない。何故、そんなに遅くなるかというと、単純に仕事に逐われて、忘れちゃってたんだけど、ね。

投稿者 strap : 04:31 | コメント (0)