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2006年11月25日
「墓石村事件」 15
「もっともストラップは、ドミネーターが犯行に使われた可能性も考えていた様ですが、ボルトアクションとすら言いませんでした。彼が見たのは写真ですし、彼としては絶対で無い限り、他の可能性も考えるべきだと考えていましたからね」
「例えば、どんなの考えてたッちゃか?」
それは僕も聞きたいと思った。
「元折れ式のハンドガンですとか、他のマニュアルによる作動方式の銃を、対照に入れていたのだという話を、私は後に彼から聞きました。又、銃身長の極端に短いカービンなども考えていた様です。まあ、それは良いとして、これで警察の仕事としては、後はハンドガンを入手できる環境にいた者を捜す事が、最も重要な課題となりました」
「わかったっチャ!犯人は、電気工っチャ!」
僕もそう思った。
「ええ、その可能性は高いでしょう。というのも、彼の運転免許証は後に、偽造であった事がわかりますし、彼の名乗っていた姓名と本籍は、新宿でホームレス生活をしている人物のものだという事も、後に判明しました。彼の車、ベージュ色のトヨタカローラの助手席には、おそらく隠しポケットがついており、そこにハンドガンを隠したのでしょう。彼に電気配線の知識があった為、私はまんまと騙されてしまったという訳ですね」
「つまり、逃げられたんですね」
「ええ、逃げられました。これが墓石村事件の全て、という風になっています」
「これで終わりですか?」
「これで終わりです。私とストラップは、駐在さんに写真をとってもらい、大学へと一緒に帰りました」
「しかし広瀬さん。一つ疑問があるんですが」
と、僕は聞いてみる事にした。
「一体何ですか?」
「ええ、疑問というのは、あの写真の事なんですが」
「ああ、ストラップの」
広瀬さんには僕の質問意図が伝わった様だった。
「ええ。ストラップさんの右手首には、何故包帯が巻かれていたんでしょうか。今の話に、ストラップさんが怪我をする様な話はありませんでしたよ」
「ああ、それなら簡単っチャ!」
僕の質問に、お杉が答えた。
「汽車か電車かから降りる時、ケガしたっチャ。あの人、右手でしか受け身がとれないから、右手か右手首がダメになったんだっチャよ」
そうなのだ。ストラップさんは極端な右利きで、左手や左目を使う事が、大の苦手なんだ。だけどそのお杉の推理は、まったくの間違いだった。
「いえ、違います。確かに彼は、受け身は右でとったでしょう。がしかし、彼は飛び下りる時は慎重だった様です。彼の為に言っておきますと、彼はそれほど間抜けではありません。あれは火傷なんですよ」
「火傷ですか?」
「ええ。墓石村の寄合い所でお茶を飲んでいる時、薬缶は彼の右手では取れない位置にありました。それで彼は仕方なく、左手を伸して取って、そのまま右手で持った急須に湯を注ごうとしたのです」
そこから先は聞かないでもわかった。ストラップさんは左手を使うのは苦手なのだ。
「ストラップさん、右手首にお湯を掛けちゃったんですか!」
「ええ、そうですよ」
僕に反応に広瀬さんは笑って、そう答えた。
「アイツらしい、マヌケなエピソードじゃねえか」
と、マスターがしゃがれ声でゆっくりと言った。本当にそうだ。そうだと思う。今後は、電車からの飛び下りに失敗した事にして話した方が、断然良いって僕は思った。
「まあ、事件の筋とは何の関係もない話でしたから、語りませんでした」
なるほど。確かに事件と関係のない情報っていうのは、あまり語らぬ方が頭がスッキリするね。
投稿者 strap : 2006年11月25日 02:23