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2006年10月10日

「墓石村事件」 9

ライフリングマークに付いて、ちょっと説明しよう。先ず、痛い鉄砲玉にする為には、速く飛ぶ重い弾が良いんだ。だから弾丸が小さなボール状ならば、飛んでいく時の断面積、つまり空気の抵抗に対して重さが少ないから、当った時にはあんまり痛くないんだ。痛くする為には弾丸の重さを増やせば良いんだけど、それだと今度はゆっくりと、しかも少ししか飛ばなくなる。それで弾丸は、重いのに速く遠くまで飛ばす工夫、つまり空気の抵抗を減らす為に、前後に細長い形をしているんだね。だけどそうすると、形がヘンテコなもんで、風だとか弾丸のわずかな凹凸なんかの影響で、いろんな方向に回っちゃって、真直ぐ飛ばなくなっちゃうんだよ。だから変な方向に回転しない様に、銃身内であらかじめ回転を与えて発射しているんだ。進行方向と同じ向きした、弾の中心を通る軸を中心にね。こうすると、他の方向への回転は難しくなるから。
この、銃身内での回転を与える為の溝なんかを、ライフリング、旋条といい、それがある銃をライフル銃と呼ぶんだ。そして、発射された弾丸に残った、回転させられた事を示す傷を、ライフリングマーク、旋条痕と呼び、捜査では銃の特定などの為に重要視されている。
「又、このブレットは当然ボートテイルに加工され、空気抵抗を抑える工夫がされていました」
ボートテイルっていうのは、ブレットの後ろ側が小舟の後ろ側みたいに細く成ってる事をいうんだ。これで空気の抵抗が減るんだって。ライフル弾では半ば常識なんだそうだ。
「まあ、これらの考えを述べた事によって、私は駐在さんに認めてもらう事ができました。駐在さんは、犯行当時私が目の前にいた訳ですから、私が犯人ではない事を知っていましたしね。私はこれによって、駐在さんのパートナーとして、事件捜査に協力する事ができたのです」
「で、見つかったっチャか?」
お杉が皿からタコスを摘んでそう言った。タコスはこの時もう、後一切れに減っていたと思う。
「いえ、残念ながら、問題はそう簡単な事ではありませんでした。小銃はかさ張りますから、すぐに見つかると私は思ったんです。しかしそれは我々部外者が犯人だった場合の話。しかし村人が犯人と言う事は大いに考えられましたから、隠し場所は必要無いくらいで、どこにでも隠せたんです」
「じゃあ、どうしたんだっチャ?」
「そちらは本隊が来てからの人海戦術に任せるとして、私と駐在さんは、その日村に居た人全員の掌、特に拇指の付け根を見て回りました」
「あっ!そうか」
僕は広瀬さん達の行動の意味がわかった。
刑事部に所属している僕らは一瞬にして、剣道とか柔道の達人を判別する事ができる。面ズレっていうおでこの痣や、寝技で潰れた耳なんかを見てね。これはそれと同じ事なんだ。
「今回の犯人は狙撃を行っている。つまり銃の扱いには慣れてるんですね。だから当然、お父さん指の付け根には発射時の反動があって、射撃をずっとやってると手が硬くなります。広瀬さん達は、それを捜して回ったんでしょう?」
「おっ!今日は冴えていますね」
「いや実は、この前仕入れたばっかりの知識なんですよ」
と、僕は言った。そう、ストラップさんが僕の右手を見て、
「感心な事だ。射撃訓練は行って居る様だね」
と言ったんだ。僕は手袋をして練習をしてたんだけど、それでもリコイルをずっと受けてると、親指の付け根と人指し指は硬く成ってしまう。又、親指の平の部分は、有鶏頭短銃の関係上、撃鉄を起こす為に硬くなっちゃう。
「ストラップですね? うん、そうでしょう。そう、私もこの事件の少し前に、キックバックによる拇指付け根の変化について、ストラップから聞いていたものですから、この時思い付いたんですね。掌を見て、銃に精通しているかどうかを見極めるという方法をです」
ストラップさんならば、愛用の銃の形状なども、ある程度わかるらしい。もっとも蓋然的仮説としてらしいけど。
「しかしよう、兄ちゃん。あそこは確か、雉子だとか猪だとか、撃って捕って喰ってたろう」
「ええ、そうです。しかしこの方法で有力な被疑者は、二十八人にまで絞られました。そのうちの一人は私と同じ、日帰りでは無い外来客の内の一人で、彼は墓石村迄自家用車で来ていました。この車はトヨタの4ドア・セダンで、後部座席側のドアには、チャイルド・ロックが有った事を憶えています。私の印象としては、家族持ちの三十代前半の男という感じでした。この男の車のトランクの中だとか、リアシートの中だとかを、私と駐在さんとでくまなく調べましたが、しかし車内のどこにも、ライフルの様な大型のショルダーウエポンは見当たりませんでした。もちろん彼には、大型の荷物はありません。他の人物と接触した事も考えて、彼と少しでも親しくした様に感じられた者も、徹底的に調べられましたが、まったくの無駄な捜査でした。又、犯行時倉井を外に連れ出していた人物も怪しまれましたが、彼とこの外来客が接触した事実は、見つける事が出来ませんでした」
「じゃあどうして、彼は銃を扱った事があったんです?それも手の皮が硬くなる程迄」

投稿者 strap : 2006年10月10日 01:46

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