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2006年10月04日

「墓石村事件」 8

 広瀬さんの説明に、僕は納得した。ボルトアクション方式のライフル以外が、凶器の筈はないって、そう僕も思ったんだ。ちなみにカービンってのは、騎兵銃だとかって呼ばれる物で、コンパクトなライフル銃の事だ。
 「広瀬さん、エラリー・クイーンみたいだっチャ!」
 と、お杉が言った。エラリー・クイーンってのは、ロデオの見せ物で起きた連続銃殺事件を解決した、昔の有名なニューヨークの探偵だ。この事件では二つの殺人の犯行に、25ACP弾が使われている。他にもこの探偵は、生まれた時と同じ苗字の人が九人連続して殺される事件や、首なし死体が十字架にかけられてる事件とか、貫通したはずの鉄砲玉が体内から検出される事件を解決している、前世紀初頭の歴史的人物だ。
 「もっとも最近知ったのですが、スナイパースカヤ・サモザラヤドナヤ・ビントブカ・ドラグノバという、セルフローディングで軽量な狙撃ライフルもあるそうですね。まあ、そういう特殊な例は良いでしょう。私の考えは駐在さんに全面的に受け入れられ、小銃を先ずは捜す事から始めました。私の考えは後に、県警の応援が来てからも裏付けされます。というのも、物理研究所の小火器科学捜査検査官によって、弾丸重量百五十九グレインの308ウインチェスター弾、軍用の7.62×51NATO弾と同口径のアミネーションが、犯行に使用されていた事が判明するからです」
 なるほど、308win弾ならばボトルネック。ボルトアクションとは限らないけど、確かに小銃用のカードリッジだ。全長が七センチメートル前後のカードリッジだから、ピストルの弾には当然向かない。と言うよりも、ピストルグリップが七センチメートルもあったら、普通の人には握れないじゃないか。現代のオートピストルでは握りの部分に、箱型のマガジンを下からはめ込むのが一般的だって事は、みんな知ってると思う。この様な箱状のマガジンの中には、弾が水平方向に寝て重なっている。だからマガジンの前後幅は、カードリッジの幅よりもちょっと大きい。当然、マガジンを収容するグリップのサイズは、マガジンの全長よりも大きい。だから、これが七センチメートルもあっちゃたまらないね。命中精度云々以前の問題だ。
広瀬さんの推理力には、僕なんかまったくかなわないって、そう思う。さて、その308win弾なんだけど、それは我が国のJGSDFが使う64式小銃でも用いられている口径だ。他にもそれは、NATO加盟国を中心とした、沢山の国の軍隊で使用されてる口径なんだ。銃口発射炎は大きい筈だから、やはりリコイルレデューサーの様な器具が使われていた事だろうと、ここで改めて僕は思い直した。結構かさばる大きさになる。
 ボトルネックってのが、そもそもどういう形のカードリッジなのかと言うと、名前のとおり壜みたいに薬莢がくびれていて、栓の位置にブレット、つまり弾頭のあるカードリッジなんだ。壜底の位置がプライマー、つまり雷管って事になるね。これは同じブレットに対して、ストレートな形の同じ長さの薬莢よりも、沢山の火薬を使う事ができる。だって薬莢が太いんだからね。つまり、大きなプレッシャーを生み出す事ができるんだ。だけどピストルでは、そんな大きなプレッシャーは必要無いからこれは、小銃用のカードリッジだと言えるんだ。実際そんな大きなプレッシャーを銃床無しで受けるのは、そうとうキツイんだろうって思う。もっとも、FN社の特殊なピストルや、旧日本軍のピストル、それに、モーゼルやトカレフなんかみたいに、ボトルネックの小さなカードリッジを使うピストルっていう例外も、あるにはあるんだけどね。
 「現代の歩兵は、マシンカービンや、突撃銃だとかって呼ばれるライフル、ええっと自動小火器が主ですから、308win弾の様な口径はちょっと時代遅れのカードリッジなんでしょ?」
 当然これは、ストラップさんの受け売りだ。
 「ええ。その突撃銃の代表格である、アブソマット・カラシニコバ、マスメディアが言うところのカラシニコフ銃は、そのコピーをニュース映像でも度々目にしますし、我々も稀に押収しますね」
 「ああいう銃には確か、反動やガス圧が大きすぎて、308win弾は余り向かないって、そういう話ですね」
 興奮して喋ったんで僕は、変なところで息継ぎをしてしまった。アブソマット・カラシニコバの代表格、一九四七年型は、「アー、カー、ソーロックシーム」の名で有名だね。
 「ええ、まるで向きません。ですから北大西洋条約機構は、小口径の軽量高速弾を、突撃銃用の新口径として採用しています。308ウインチェスター弾はもっぱら、狙撃用ライフルでの使用です。先程のパーカー・ヘイルM85もこの口径ですね。アメリカ合衆国のレザーネックが使うM40A3や、グリーンベレーのM24などは、308ウインチェスター弾を使用する、代表的なボルトアクション狙撃ライフルと言って良いでしょう」
 「じゃ、やっぱりボルトアクションっチャ!」
 M40A3やM24は、レミントン社のM700をベースとした、ボルトアクションライフルだ。
 「ええ、ボルトアクションでしょう。このブレットは、ホロー・ポイントで、見事にマッシュルーム状の変型をしていました」
 ホロー・ポイントっていうのは、運動エネルギーを目標、つまり人体等に停める為、貫通しないで残る様に、バナナの皮がめくれる様な変型をする様に工夫した鉄砲玉の事だ。正確にいうと、鉄砲玉の先っぽが窪んでいる構造になってるものなんだ。こう変型すると弾は貫通しなくなるから、運動エネルギーはそこに留まる事に成る。だから当ると、とっても痛くなる様に作ってあるんだね。みんなもご存知の、ダムダム弾の一種だと思ってもらっても、良いと思う。
 「ですがライフリングマークは幸い残り、エンフィールド型で、右回りに六本でツイストしたバレルから、発射されている事がわかりました」

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2006年10月10日

「墓石村事件」 9

ライフリングマークに付いて、ちょっと説明しよう。先ず、痛い鉄砲玉にする為には、速く飛ぶ重い弾が良いんだ。だから弾丸が小さなボール状ならば、飛んでいく時の断面積、つまり空気の抵抗に対して重さが少ないから、当った時にはあんまり痛くないんだ。痛くする為には弾丸の重さを増やせば良いんだけど、それだと今度はゆっくりと、しかも少ししか飛ばなくなる。それで弾丸は、重いのに速く遠くまで飛ばす工夫、つまり空気の抵抗を減らす為に、前後に細長い形をしているんだね。だけどそうすると、形がヘンテコなもんで、風だとか弾丸のわずかな凹凸なんかの影響で、いろんな方向に回っちゃって、真直ぐ飛ばなくなっちゃうんだよ。だから変な方向に回転しない様に、銃身内であらかじめ回転を与えて発射しているんだ。進行方向と同じ向きした、弾の中心を通る軸を中心にね。こうすると、他の方向への回転は難しくなるから。
この、銃身内での回転を与える為の溝なんかを、ライフリング、旋条といい、それがある銃をライフル銃と呼ぶんだ。そして、発射された弾丸に残った、回転させられた事を示す傷を、ライフリングマーク、旋条痕と呼び、捜査では銃の特定などの為に重要視されている。
「又、このブレットは当然ボートテイルに加工され、空気抵抗を抑える工夫がされていました」
ボートテイルっていうのは、ブレットの後ろ側が小舟の後ろ側みたいに細く成ってる事をいうんだ。これで空気の抵抗が減るんだって。ライフル弾では半ば常識なんだそうだ。
「まあ、これらの考えを述べた事によって、私は駐在さんに認めてもらう事ができました。駐在さんは、犯行当時私が目の前にいた訳ですから、私が犯人ではない事を知っていましたしね。私はこれによって、駐在さんのパートナーとして、事件捜査に協力する事ができたのです」
「で、見つかったっチャか?」
お杉が皿からタコスを摘んでそう言った。タコスはこの時もう、後一切れに減っていたと思う。
「いえ、残念ながら、問題はそう簡単な事ではありませんでした。小銃はかさ張りますから、すぐに見つかると私は思ったんです。しかしそれは我々部外者が犯人だった場合の話。しかし村人が犯人と言う事は大いに考えられましたから、隠し場所は必要無いくらいで、どこにでも隠せたんです」
「じゃあ、どうしたんだっチャ?」
「そちらは本隊が来てからの人海戦術に任せるとして、私と駐在さんは、その日村に居た人全員の掌、特に拇指の付け根を見て回りました」
「あっ!そうか」
僕は広瀬さん達の行動の意味がわかった。
刑事部に所属している僕らは一瞬にして、剣道とか柔道の達人を判別する事ができる。面ズレっていうおでこの痣や、寝技で潰れた耳なんかを見てね。これはそれと同じ事なんだ。
「今回の犯人は狙撃を行っている。つまり銃の扱いには慣れてるんですね。だから当然、お父さん指の付け根には発射時の反動があって、射撃をずっとやってると手が硬くなります。広瀬さん達は、それを捜して回ったんでしょう?」
「おっ!今日は冴えていますね」
「いや実は、この前仕入れたばっかりの知識なんですよ」
と、僕は言った。そう、ストラップさんが僕の右手を見て、
「感心な事だ。射撃訓練は行って居る様だね」
と言ったんだ。僕は手袋をして練習をしてたんだけど、それでもリコイルをずっと受けてると、親指の付け根と人指し指は硬く成ってしまう。又、親指の平の部分は、有鶏頭短銃の関係上、撃鉄を起こす為に硬くなっちゃう。
「ストラップですね? うん、そうでしょう。そう、私もこの事件の少し前に、キックバックによる拇指付け根の変化について、ストラップから聞いていたものですから、この時思い付いたんですね。掌を見て、銃に精通しているかどうかを見極めるという方法をです」
ストラップさんならば、愛用の銃の形状なども、ある程度わかるらしい。もっとも蓋然的仮説としてらしいけど。
「しかしよう、兄ちゃん。あそこは確か、雉子だとか猪だとか、撃って捕って喰ってたろう」
「ええ、そうです。しかしこの方法で有力な被疑者は、二十八人にまで絞られました。そのうちの一人は私と同じ、日帰りでは無い外来客の内の一人で、彼は墓石村迄自家用車で来ていました。この車はトヨタの4ドア・セダンで、後部座席側のドアには、チャイルド・ロックが有った事を憶えています。私の印象としては、家族持ちの三十代前半の男という感じでした。この男の車のトランクの中だとか、リアシートの中だとかを、私と駐在さんとでくまなく調べましたが、しかし車内のどこにも、ライフルの様な大型のショルダーウエポンは見当たりませんでした。もちろん彼には、大型の荷物はありません。他の人物と接触した事も考えて、彼と少しでも親しくした様に感じられた者も、徹底的に調べられましたが、まったくの無駄な捜査でした。又、犯行時倉井を外に連れ出していた人物も怪しまれましたが、彼とこの外来客が接触した事実は、見つける事が出来ませんでした」
「じゃあどうして、彼は銃を扱った事があったんです?それも手の皮が硬くなる程迄」

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2006年10月11日

「墓石村事件」 10

僕の質問に広瀬さんは、最後のタコスを食べながら、
「彼は銃を扱った事などないと主張しました。彼は電気工で、インパクト・ドライバー・ドリルをよく使うから、手の形がドリルの握りの形になったのだと、そう主張したのです。実際、電気工事の知識としては、彼は十分なものを持っていました。ですから、私は彼の話を信用したのです」
と言った。広瀬さんがテストしたのなら、彼は本当に電気に詳しかったんだろう。ちなみに、インパクト・ドライバー・ドリルってのは、打撃機能を持った、ドライバーにもなる電動ドリルの事だ。ピストルみたいな形をしていて、引き金を引くと、ウイーンと先っぽのドリル、もしくはドライバーがグルグル回る道具だと思ってほしい。又打撃は、回転方向に加えられるから、ボルトの締め付けなんかもできるんだよ。
「ですから、残り二十七人の村人について、追求を駐在さんはしました。しかし狭い村での事件です。何人もその二十七人の犯行当時の居場所について証言する人が出てきまして、二十七人全員が、現場不在証明があるという形になりました。もっとも、私と駐在さんが証明できた人ですら、七人もいたのです。夜の間に本隊も到着しますが、やはり小銃は見つかりません。狙撃地点こそ、被害者の倒れた位置から約百七十メートル離れた場所だと特定出来ましたが、その他には、今まで語った内容以上の事は、まるでわかってはいない様でした。一夜が明けて、捜査はまったくのお手上げ状態になります」
「じゃあ、呼ぶっチャよ」
「本当に呼んだのか?」
「ええ、呼びました」
「呼んだのかよ」
「誰をです?」
「彼ですよ」
「奴をさ」
「あ!」
僕はわからずに、質問してしまった。何だか恥ずかしい。
ストラップさんは、発射された鉄砲の空薬莢や弾丸から、様々な事を発見する名人だ。未発砲の銃弾を検討しても、金属の材質や形から、製造メーカーやロットナンバーだけで無く、流通ルートまで、本当に沢山のデータを引き出す事ができる。死人の歯を見せるならば法医学の専門家よりも、法歯学の専門家の方がずっと良い。それとまったく同じ事で、銃弾の鑑定をやらせるならば、科学捜査の専門家なんかよりも、ストラップさんの方が何億倍も頼りになるんだ。科学警察研究所機械第二研究室の研究員なんか、ストラップさんの足元にも及ばない。
「まあ、兎に角、小学校の教職員室にある黒電話で、大学のクラブハウスにかけました。そしてストラップを、呼び出してもらったのです。しかし彼は事件の話を少しすると、少し私を咎めた後に現在地を聞いて、そのまま電話をきってしまいました」
咎めたっていうのは、広瀬さんが旅先でしょっちゅう事件に首を突っ込んでた事をだろう。この件以前にも広瀬さんは、上田、桐生、箕面、新南陽、etceteraと、いくつかの事件に関わっている。
「ああ、あの人電話嫌いだっチャから、直に話そうと思ってきったっチャね」
「まあその通りですが、交通手段がありませんから、私は心配になりました。彼は当時まだ例の、黄色いナンバープレートのミッドシップカーを所有していませんでしたから、それで墓石村に来る事はできなかったのです」
うん。ホンダビートの市販は、この事件の五年後の筈だから、所有している筈がない。第一、ストラップさんのビートは平成四年式の上、セコハンだ。
「タクシーで行くっチャ!」
「あの貧乏人が、そんな金持ってる訳ねえやなあ」
お杉の言葉に、マスターが低い嗄れた声で答えた。
「電車でしょう。国鉄久大線があります!」
僕は思い付いたんで、そう言った。広瀬さんは確かに、「銅の産出が主産業であった関係上、鉄道、つまりJR久大本線は通ってますが、駅は廃止されています」とか言った。という事は、線路は通ってるし、当然電車もそこを通過はするんだ。
「おっ、今日はやっぱり、冴えていますね」
僕は誉められてうれしくなった。
「そうです。彼は鈍行電車の窓から飛び下りて、墓石村に来ました。わざわざ速度を落とすポイントを、三度も確かめてからだそうです。彼としては生で研究対象である、銃撃による死体を是非観察したかったのですね」
「なーんだ。死体が見たかったっチャか」
それはそうだろう。ストラップさんとはいえ、研究も無しに今の知識を手に入れた訳じゃあるまい。

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2006年10月12日

「墓石村事件」 11

「さて、ストラップが来る迄の間、我々は被害者が殺害された理由を探る事にしました。しかしこれも失敗に終わります」
「どうしてです? 被害者は、そんなに無害な人だったんですか?」
まったく恨みを買わずに生きている人間などほとんどいない事を、この職に付いてから僕は知った。だから聞いてみたんだ。
「いえ、まったくその逆です。余りに人の恨みを買っていたのですよ、地元で倉井ドンの一家と呼ばれるその一族は。最早村の誰しもが、動機を持っていると言っても過言ではない位でした」
喋り過ぎて喉が乾いていたんだろう。ここで広瀬さんはアーリータイムスをグッと飲んで、空のグラスに又それを注ぎ入れた。僕もこの隙にと、グラスに氷とそれを注ぎ足したしたんだ。
「被害者の父親は、銅山が閉山になる頃、村内で力をつけ始めた様です。彼は地主だったのですが、それ迄は鉱山関係者の力が強く、彼の一族はただの土地持ちにすぎませんでした。閉山が噂され始めた頃の村は、最早活気もなく、まとまりもない状態でした。そんな村のまとめ役として彼、つまり被害者の父は村長に立候補しました。しかし支持者は少なく、当然対立候補も出てきます。にも関わらず、彼は村長として当選をします」
「何故です?」
「それには幕炉兄弟というならず者が、関与していたと考えられています。真実は良くわかっていません。が、一つだけ確かな事があります。それは、投票は行われなかったという事です」
「一体どういう事です?」
「簡単な事です。何故か、と、一応言っておきましょう。何故か、対立候補が出馬を取り止めにした為です。つまり立候補者が、被害者の父以外には、いなくなったのです。おそらくは幕炉兄弟の恐喝行為があったものと、私は考えています」
何だかひどい話だと思った。
「村長になってからの彼は、やりたい放題だった様ですね。幕炉兄弟を使っての、村議会議員への圧力が確認されています。村役場での重職には、彼の息の掛かった者しか付く事が出来ませんでしたし、新採用の際も彼とのコネが必要でした。当時の墓石村駐在員を買収していた様ですし、村は彼の私物化していました。その頃の話は、楽しい酒の席には似つかわしくはないですし、事件と直接の関係がある訳でもありませんから、省略をしましょう。彼がそれほどの力を振るわなくなるのは、幕炉兄弟の逮捕以後の事です。この兄弟は飯塚の方で、傷害か何かでブチ込まれたと噂されていました」
「じゃ、そっからは、村は平和になったっチャ」
「まあ、平常化に近付いたと言って良いでしょう。それからしばらくしてから、被害者の父親も病没しましたし、以後幕炉兄弟が墓石村に訪れたという記録は、どこにも残っていません。しかしかつての影響がまったく無くなったかというと、そうではありませんでした。ですから被害者のマイク倉井こと倉井育馬は、村の有力者たりえたのです」
「しかしよう、兄ちゃん。それだけ恨まれている奴なら、そいつを殺した奴は、村の英雄だろうに。村人の証言で、えっと、アリバイだったか?それがある奴は、怪しいんじゃないかい」
「ええ。ですから大分県警察は、捜査途中から、駐在さん以外の証言によるアリバイを無視しています。つまり、犯行当時体育館にいた者だけが、捜査対象にならなかったんですね。全ての民家にお願いして、家人の立ち会いの元に、小銃を捜させてもらいました。又、外来の人も、すべての荷物を調べさせてもらいました」
僕は内部にいるから良くわかる。おそらくは村中を捜査員達がライフルを捜しまわった事だと思う。でもどっからも、問題のライフルは見つからなかったんだ。
「あまり長引いては大変ですから、僕ら外来の者は運転免許証や、学生証等の身分証明書を写させた後、帰っても良いという事になりました。それで私以外の、村外からの人間は、例の電気工を含めて、全員が帰りました。しかし私は事件に興味がありましたし、ストラップがこちらに向かって来ていましたから、村に残る事にしたのです」

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2006年10月19日

「墓石村事件」 12

「で、ストラップっチは、もう来たっチャか?」
お杉はどうも、この話にもう飽きてき出している様子だった。ストラップさんが来る迄、大した事はわからなかったみたいだから、この際時間を進めてもらおう。
「では、彼が来てからの話をしましょう。県警の本隊が来てからというもの、駐在さんには最早、大した仕事はありませんでした。初動捜査をした関係上、話は時折聞かれてはいましたが、彼の主な仕事は、他の捜査員と村人達との間に立って、捜査を円滑に進展させようとする努力だけだったのです。私を認めてくれていたのは駐在さんだけですから、私とて捜査からは当然外されていました。しかし駐在さんは、私の是非との頼みを聞いて、ストラップに検出されたブレットを見せてくれる様、本部長に頼んでくれます。そして、駐在さんがしつこく交渉した結果、ストラップには検出されたブレットの拡大写真を、見せても良いという事になりました」
「遺体は見なかったんですか?」
「遺体は村医者の家に安置されていたのですが、残念な事に、ストラップに見せられる事はありませんでした」
僕は内部にいるから良くわかる。こういった証拠物は、あまり誰にでもは見せたがらないもんだ。捜査のさまたげになる事すらある。
「普通は頼まれたって、見たかねえよ。死体なんざ」
と、マスターが言った。もっともだ。
「ええ、そうですね」
と、広瀬さんも同調する。
「で、写真見て、何か言ったっチか? ストラップっチ」
「先ず最初に彼は、大分県警察には、弾道専門の物理学者はいないのかと、そう言いました」
「偉そうに」
マスターはそう、ボツリと言った。
「まあ、彼は本当に能力があるのだから仕方が有りませんよ。我々警察で弾道学と言ったら、主に銃創学の意味ですから」
弾道学とは、主に銃弾の動きを調べる学問で、いくつかのブランチに細分化できる。その内で、物体に当った時のブレットの破壊力を中心に研究する学問を、ターミナル・バリスティックといい、それからさらに派生した分野が、ウーンド・バリスティック、つまり銃創学だ。それは、鉄砲による怪我を研究する物なんだ。
「実際、今ではうちの検査官よりも、彼を頼った方が実がありますからね」
「ああ、俺もそれは良く知ってるよ。それはアイツの唯一の取柄だ」
とマスターは呟いた後、
「で、奴さん、何て言ったんだい」
と言った。
「彼は、写真では良くわからないが、これは工場生産品のアミネーションでは無いし、工場生産品のブレットでも無いと言いました」
「と言うと?」
僕は質問する。
「私はそれを、生半可な技術や知識の持ち主の犯行ではないと、そういう意味にとらえました」
確かにそうかも知れない。工場生産品の製造公差が大きいと感じるならば、精度の良い手詰めのカードリッジを使いたいだろう。だけどその為には、作る技術か、作れる人物とのコネクションが必要だし、先ず製造公差が大きいと感じれなければならない。
「弾道学、全く関係ないッちゃ!」
お杉の言葉に、僕もマスターもプッと吹き出した。広瀬さんも笑って、
「いや、まあ、未だ続きがあるのですよ。本番はここからです」
と言った。

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