« 「墓石村事件」 11 | メイン | 「墓石村事件」 13 »
2006年10月19日
「墓石村事件」 12
「で、ストラップっチは、もう来たっチャか?」
お杉はどうも、この話にもう飽きてき出している様子だった。ストラップさんが来る迄、大した事はわからなかったみたいだから、この際時間を進めてもらおう。
「では、彼が来てからの話をしましょう。県警の本隊が来てからというもの、駐在さんには最早、大した仕事はありませんでした。初動捜査をした関係上、話は時折聞かれてはいましたが、彼の主な仕事は、他の捜査員と村人達との間に立って、捜査を円滑に進展させようとする努力だけだったのです。私を認めてくれていたのは駐在さんだけですから、私とて捜査からは当然外されていました。しかし駐在さんは、私の是非との頼みを聞いて、ストラップに検出されたブレットを見せてくれる様、本部長に頼んでくれます。そして、駐在さんがしつこく交渉した結果、ストラップには検出されたブレットの拡大写真を、見せても良いという事になりました」
「遺体は見なかったんですか?」
「遺体は村医者の家に安置されていたのですが、残念な事に、ストラップに見せられる事はありませんでした」
僕は内部にいるから良くわかる。こういった証拠物は、あまり誰にでもは見せたがらないもんだ。捜査のさまたげになる事すらある。
「普通は頼まれたって、見たかねえよ。死体なんざ」
と、マスターが言った。もっともだ。
「ええ、そうですね」
と、広瀬さんも同調する。
「で、写真見て、何か言ったっチか? ストラップっチ」
「先ず最初に彼は、大分県警察には、弾道専門の物理学者はいないのかと、そう言いました」
「偉そうに」
マスターはそう、ボツリと言った。
「まあ、彼は本当に能力があるのだから仕方が有りませんよ。我々警察で弾道学と言ったら、主に銃創学の意味ですから」
弾道学とは、主に銃弾の動きを調べる学問で、いくつかのブランチに細分化できる。その内で、物体に当った時のブレットの破壊力を中心に研究する学問を、ターミナル・バリスティックといい、それからさらに派生した分野が、ウーンド・バリスティック、つまり銃創学だ。それは、鉄砲による怪我を研究する物なんだ。
「実際、今ではうちの検査官よりも、彼を頼った方が実がありますからね」
「ああ、俺もそれは良く知ってるよ。それはアイツの唯一の取柄だ」
とマスターは呟いた後、
「で、奴さん、何て言ったんだい」
と言った。
「彼は、写真では良くわからないが、これは工場生産品のアミネーションでは無いし、工場生産品のブレットでも無いと言いました」
「と言うと?」
僕は質問する。
「私はそれを、生半可な技術や知識の持ち主の犯行ではないと、そういう意味にとらえました」
確かにそうかも知れない。工場生産品の製造公差が大きいと感じるならば、精度の良い手詰めのカードリッジを使いたいだろう。だけどその為には、作る技術か、作れる人物とのコネクションが必要だし、先ず製造公差が大きいと感じれなければならない。
「弾道学、全く関係ないッちゃ!」
お杉の言葉に、僕もマスターもプッと吹き出した。広瀬さんも笑って、
「いや、まあ、未だ続きがあるのですよ。本番はここからです」
と言った。
投稿者 strap : 2006年10月19日 12:07