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2006年10月12日

「墓石村事件」 11

「さて、ストラップが来る迄の間、我々は被害者が殺害された理由を探る事にしました。しかしこれも失敗に終わります」
「どうしてです? 被害者は、そんなに無害な人だったんですか?」
まったく恨みを買わずに生きている人間などほとんどいない事を、この職に付いてから僕は知った。だから聞いてみたんだ。
「いえ、まったくその逆です。余りに人の恨みを買っていたのですよ、地元で倉井ドンの一家と呼ばれるその一族は。最早村の誰しもが、動機を持っていると言っても過言ではない位でした」
喋り過ぎて喉が乾いていたんだろう。ここで広瀬さんはアーリータイムスをグッと飲んで、空のグラスに又それを注ぎ入れた。僕もこの隙にと、グラスに氷とそれを注ぎ足したしたんだ。
「被害者の父親は、銅山が閉山になる頃、村内で力をつけ始めた様です。彼は地主だったのですが、それ迄は鉱山関係者の力が強く、彼の一族はただの土地持ちにすぎませんでした。閉山が噂され始めた頃の村は、最早活気もなく、まとまりもない状態でした。そんな村のまとめ役として彼、つまり被害者の父は村長に立候補しました。しかし支持者は少なく、当然対立候補も出てきます。にも関わらず、彼は村長として当選をします」
「何故です?」
「それには幕炉兄弟というならず者が、関与していたと考えられています。真実は良くわかっていません。が、一つだけ確かな事があります。それは、投票は行われなかったという事です」
「一体どういう事です?」
「簡単な事です。何故か、と、一応言っておきましょう。何故か、対立候補が出馬を取り止めにした為です。つまり立候補者が、被害者の父以外には、いなくなったのです。おそらくは幕炉兄弟の恐喝行為があったものと、私は考えています」
何だかひどい話だと思った。
「村長になってからの彼は、やりたい放題だった様ですね。幕炉兄弟を使っての、村議会議員への圧力が確認されています。村役場での重職には、彼の息の掛かった者しか付く事が出来ませんでしたし、新採用の際も彼とのコネが必要でした。当時の墓石村駐在員を買収していた様ですし、村は彼の私物化していました。その頃の話は、楽しい酒の席には似つかわしくはないですし、事件と直接の関係がある訳でもありませんから、省略をしましょう。彼がそれほどの力を振るわなくなるのは、幕炉兄弟の逮捕以後の事です。この兄弟は飯塚の方で、傷害か何かでブチ込まれたと噂されていました」
「じゃ、そっからは、村は平和になったっチャ」
「まあ、平常化に近付いたと言って良いでしょう。それからしばらくしてから、被害者の父親も病没しましたし、以後幕炉兄弟が墓石村に訪れたという記録は、どこにも残っていません。しかしかつての影響がまったく無くなったかというと、そうではありませんでした。ですから被害者のマイク倉井こと倉井育馬は、村の有力者たりえたのです」
「しかしよう、兄ちゃん。それだけ恨まれている奴なら、そいつを殺した奴は、村の英雄だろうに。村人の証言で、えっと、アリバイだったか?それがある奴は、怪しいんじゃないかい」
「ええ。ですから大分県警察は、捜査途中から、駐在さん以外の証言によるアリバイを無視しています。つまり、犯行当時体育館にいた者だけが、捜査対象にならなかったんですね。全ての民家にお願いして、家人の立ち会いの元に、小銃を捜させてもらいました。又、外来の人も、すべての荷物を調べさせてもらいました」
僕は内部にいるから良くわかる。おそらくは村中を捜査員達がライフルを捜しまわった事だと思う。でもどっからも、問題のライフルは見つからなかったんだ。
「あまり長引いては大変ですから、僕ら外来の者は運転免許証や、学生証等の身分証明書を写させた後、帰っても良いという事になりました。それで私以外の、村外からの人間は、例の電気工を含めて、全員が帰りました。しかし私は事件に興味がありましたし、ストラップがこちらに向かって来ていましたから、村に残る事にしたのです」

投稿者 strap : 2006年10月12日 12:42

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