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2006年10月11日

「墓石村事件」 10

僕の質問に広瀬さんは、最後のタコスを食べながら、
「彼は銃を扱った事などないと主張しました。彼は電気工で、インパクト・ドライバー・ドリルをよく使うから、手の形がドリルの握りの形になったのだと、そう主張したのです。実際、電気工事の知識としては、彼は十分なものを持っていました。ですから、私は彼の話を信用したのです」
と言った。広瀬さんがテストしたのなら、彼は本当に電気に詳しかったんだろう。ちなみに、インパクト・ドライバー・ドリルってのは、打撃機能を持った、ドライバーにもなる電動ドリルの事だ。ピストルみたいな形をしていて、引き金を引くと、ウイーンと先っぽのドリル、もしくはドライバーがグルグル回る道具だと思ってほしい。又打撃は、回転方向に加えられるから、ボルトの締め付けなんかもできるんだよ。
「ですから、残り二十七人の村人について、追求を駐在さんはしました。しかし狭い村での事件です。何人もその二十七人の犯行当時の居場所について証言する人が出てきまして、二十七人全員が、現場不在証明があるという形になりました。もっとも、私と駐在さんが証明できた人ですら、七人もいたのです。夜の間に本隊も到着しますが、やはり小銃は見つかりません。狙撃地点こそ、被害者の倒れた位置から約百七十メートル離れた場所だと特定出来ましたが、その他には、今まで語った内容以上の事は、まるでわかってはいない様でした。一夜が明けて、捜査はまったくのお手上げ状態になります」
「じゃあ、呼ぶっチャよ」
「本当に呼んだのか?」
「ええ、呼びました」
「呼んだのかよ」
「誰をです?」
「彼ですよ」
「奴をさ」
「あ!」
僕はわからずに、質問してしまった。何だか恥ずかしい。
ストラップさんは、発射された鉄砲の空薬莢や弾丸から、様々な事を発見する名人だ。未発砲の銃弾を検討しても、金属の材質や形から、製造メーカーやロットナンバーだけで無く、流通ルートまで、本当に沢山のデータを引き出す事ができる。死人の歯を見せるならば法医学の専門家よりも、法歯学の専門家の方がずっと良い。それとまったく同じ事で、銃弾の鑑定をやらせるならば、科学捜査の専門家なんかよりも、ストラップさんの方が何億倍も頼りになるんだ。科学警察研究所機械第二研究室の研究員なんか、ストラップさんの足元にも及ばない。
「まあ、兎に角、小学校の教職員室にある黒電話で、大学のクラブハウスにかけました。そしてストラップを、呼び出してもらったのです。しかし彼は事件の話を少しすると、少し私を咎めた後に現在地を聞いて、そのまま電話をきってしまいました」
咎めたっていうのは、広瀬さんが旅先でしょっちゅう事件に首を突っ込んでた事をだろう。この件以前にも広瀬さんは、上田、桐生、箕面、新南陽、etceteraと、いくつかの事件に関わっている。
「ああ、あの人電話嫌いだっチャから、直に話そうと思ってきったっチャね」
「まあその通りですが、交通手段がありませんから、私は心配になりました。彼は当時まだ例の、黄色いナンバープレートのミッドシップカーを所有していませんでしたから、それで墓石村に来る事はできなかったのです」
うん。ホンダビートの市販は、この事件の五年後の筈だから、所有している筈がない。第一、ストラップさんのビートは平成四年式の上、セコハンだ。
「タクシーで行くっチャ!」
「あの貧乏人が、そんな金持ってる訳ねえやなあ」
お杉の言葉に、マスターが低い嗄れた声で答えた。
「電車でしょう。国鉄久大線があります!」
僕は思い付いたんで、そう言った。広瀬さんは確かに、「銅の産出が主産業であった関係上、鉄道、つまりJR久大本線は通ってますが、駅は廃止されています」とか言った。という事は、線路は通ってるし、当然電車もそこを通過はするんだ。
「おっ、今日はやっぱり、冴えていますね」
僕は誉められてうれしくなった。
「そうです。彼は鈍行電車の窓から飛び下りて、墓石村に来ました。わざわざ速度を落とすポイントを、三度も確かめてからだそうです。彼としては生で研究対象である、銃撃による死体を是非観察したかったのですね」
「なーんだ。死体が見たかったっチャか」
それはそうだろう。ストラップさんとはいえ、研究も無しに今の知識を手に入れた訳じゃあるまい。

投稿者 strap : 2006年10月11日 00:20

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