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2006年09月28日

「墓石村事件」 7

 「順をおって説明しましょう。私は先ず、マシンガンを除外しました。何故ならば、銃声から判断するに、一度しか射撃はなされていないからです。単発で発射し難い構造の銃は除外すべきだと考えました。又同時に、この様なかさばる銃は、この手の仕事には向いていないと考えたからです」
 これは誰にでもわかる事だ。
 「次に私は、ホイールロック銃やフリントロック銃、パーカッションロック銃、ショットガン、対戦車ライフル、グレネイド弾、クロスボウ、空気銃、その他の銃以外の射撃武器を除外しました」
 「どうして、ショットガンや対戦車ライフルはダメっチャか?」
 「ショットガンは散弾銃とも言います様に、ワッズ内のペレットを飛び散らせる構造の銃です。しかしこの事件での弾は一発だけでした」
 そう。ショットガンとは、送り蓋の中の金属の粒々をばらまく銃で、感覚としては点を狙うというよりも、目標を面で捕らえるという感じの銃だ。絞りを調節する事によって、金属の粒の広がり方を変える事ができる。又、ショットガンはスムースボアと言って、旋条が切ってなく、発射された弾は例え一つの金属の粒だったとしても、普通回りながらは飛ばないんだ。二つの事から考えれば当然、狙撃なんかには適して無い銃だよね。
 「たとえライフルド・スラッグを使ったにしても、弾体自体に切ったライフルでは、百五十メートルの狙撃は絶対に無理です」
 スラッグっていうのは、ナメクジの事で、この場合の用法としては、一粒弾、ショットガン用のいっぱいに分れない、単体の弾の事だ。もっともこれは、金属の塊全般を指すスラングらしいけどね。ライフルド・スラッグってのは、発射された後回転する様に、弾自体に溝が彫られた、一粒弾の事なんだってさ。
 「又、もっと近くで撃ったとしても、当然頭は破裂しません。ショットガンで人体の頭部を吹っ飛ばすには、互いの散弾による衝撃が、共鳴振動を起す程纏って着弾させねばなりませんから、それはどんなにチョークを絞ったとしても、至近距離でなければ無理と言うものです。我が国で最も普及している、十二番ゲージのシェル自体のサイズも元々、百五十メートルも飛ばす事を考えては作られていませんので、プロペラントを詰め様にも、恐らくそんな事は無駄な努力でしょう」
 ここは最早狙撃とは関係の無い話だから、余談と言えるだろう。
 「対戦車ライフルに関しては、命中精度云々について論じても良いのですが、それ以前に、威力が弱すぎます」
 そのとおりだろう。戦車を壊す銃が、人間の頭を半分吹っ飛ばしたぐらいで終わるはずがない。
 「続けて下さいっチャあ」
 と、お杉も納得をしていた。
 「その次に私は、有効射程が百五十メートル以上ないといけませんから、ハンドガンは除外しました。これらの銃では、偶然に頼らない限り、百五十メートル先の人の額に銃弾を命中させる事は難しいでしょう。シューターの能力の問題ではなく、銃自体の精度の問題としてです。バレルの長さや、アミネーションのケース長の関係上、長距離射撃には当然向いていません。無論、照準精度を上げる為の大型の保持装置は、ターゲットが動く事と、かさ張り過ぎる事の関係上、使用できませんしね。同様の理由で、マシンピストルも除外します」
 とはいえ、僕が携帯している拳銃は、私服警官用のスナブノーズリボルバーなんで、オートピストルも当らないって事にあまり実感はなかった。
 リボルバーというのは、輪胴式と呼ばれる物で、レンコンの形をしたクルクル回る、鉄砲玉を入れるところのある形の銃だ。このレンコンをシリンダーといい、これが弾倉と薬室を兼ねている。こういう形では無いピストルが、オートピストルだと思ってもらって良いと思う。
 「で、実際、オートピストルの命中精度ってのは、どんなもんなんです?」
 と、僕は質問したが、それに答えてくれたのは広瀬さんでは無く、マスターだった。
 「コルトの四十五口径は知ってなさるな、兄ちゃん」
 僕はその質問に頷く。コルトの45ACP、最も有名なピストル、M1911、つまりコルト・ガバメントだ。
 「グーッド。五インチバレルのそいつを、二十五ヤードでレストマシーンに保持させた時のグルーピングが、市販の弾なら五ないし十センチメートル」
 マシンレストとか、レストマシンって呼ばれるのは、銃や弾薬の良し悪しを調べる為に使う、銃を万力なんかで固定して、引き金を引く機械だ。まあもっとも、命中精度の把握だけが用途ではないけど、人間の保持ミスや、照準ミスを機械的にカットしてくれる器具なんだね。当然、ただ締めてるだけじゃ、射撃時に器具と銃器との間にズレが生じるから、銃の反動を逃がす為の何らかの装置が付いてるみたいだ。つまり、マスターの話をわかり易く解説をしておくと、人間による誤差の無い状態、つまり機械が握った状態で射撃した時でも、二十五ヤード先の的に、弾は五から十センチメートルの間で散らばるっていう意味。
 「大体そのあたりで集弾する様ですね。まあ、今のマスターの説明を聞いてわかります様に、いかに射撃の達人といえども、道具の精度には頼らねばなりません。なぜならば、人間という要素が入って無い状態でさえ、こんなにも誤差が生じますからね」
 弘法筆を選ばずという格言は、ガンマンやシューターの世界では、全く当て嵌まらないものらしい。
 「二十二口径、十インチバレルの競技用銃ならば、レストマシーンに保持させた場合、五十ヤードでも、二センチ程度という事はあり得るが、百五十メートルの狙撃となると、ちょっと、いや、かなり厳しいか」
 マスターは、低くかすれた声で解説をした。
 「なるほどっチャアー。つまりピストルでの狙撃は全く無理っチャね」
 説明を聞いたお杉はそう言い、取り出したタバコに、ターボライターで火をつけた。彼が吸うのは、L&M・マイルドっていう銘柄だ。
 「第一、人間の頭半分吹き飛ばせるハンドガンなんざねぇよ」
 と、マスターも笑った。
 「最後に私は、手動ではない全ての銃を除外しました。何故ならば、セルフローディングの銃と言うのは、発射ガスの圧力や、発射の反動などを利用する造りの為、部品と部品の間に遊びが多いからです。わかり易く言えば、ガタが多い、とも言えるでしょう。これは作動を円滑に行う為には当然必要な事で、ここがタイトだと、プロペラントの燃焼粕等が溜り、すぐに作動不良を起してしまいます。しかし狙撃には高い精度が要求されますから、ガタつく様な銃ではその仕事には不向きなのです。例外的にセルフローディングのタクティカルライフルも確かに存在します。例えば、パーカー・ヘイルM85などがそうですね。しかしこれらはとても重く、あの様な場合十数キログラムもあるライフルを持ち歩くというのは、ちょっと常識的に考えられません。パーカー・ヘイルM85は、十四キログラムもありますしね。セルフローディングの銃で命中精度を持たせる為には、このぐらいの重量が必要なのでしょう」
 そう言うと、広瀬さんは少し声を大きくしてこう言った。
 「私の結論はこうでした。「この犯行は、ボルトアクション方式の小銃で行われた。故に、カービンを含む、ボルトアクション方式の小銃を捜す事が先決である」まあ、狙撃銃がボルトアクション方式であるというのは、半ば常識ではありますがね」

投稿者 strap : 2006年09月28日 01:45

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