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2006年09月25日

「墓石村事件」 6

 「被害者の銃傷を見ましたか」
 「はい。被害者は空洞現象による瞬間空洞で、鼻から上の部分が膨らんで、後頭部上側を中心に破裂していました。残った組織は、まるでイチゴジャムの様でした」
 粘土に銃弾を撃込むと、銃弾径の十倍をこえる大きな穴が空く。これが瞬間空洞だ。ただし粘土は弾性がないんで、瞬間空洞がそのままの形で残る事に成るんだね。
 「第一銃創は、眉間の間、額の真ん中です。つまり、正面から撃たれたという事に成りますね」
 これは完全な狙撃だ。眉間の間なんかには、狙わなきゃ当らない。頭部を目的とした正面からの狙撃の場合、ここを狙うのが一般的なんだ。このケースではたまたま、左右にも、下にもズレなかったって事だろう。
 「弾丸は、ブレットは何処に有ったのですか?」
 僕は聞いてみた。
 「それは随分後にわかった事ですが、まあここで説明いたしましょう。頭蓋骨を突き抜けブレットは、脳幹内で後方拡張を引き起こした後、上向きに偏向しながら進み、ついには後頭部の骨にぶつかりました。えっと、骨と接触したのはブレットの底の部分です。しかしそこ迄にエネルギーを上手く消費していたので、それを突き抜く事はせず、脳天に向かって跳ね返されました。ですからマッシュルーミングしたブレットは、頭のてっぺんの骨にめり込んだ状態で発見されています。尚、ブレットを跳弾させた部分を中心に、頭部の破裂、脳漿の漏れは起きていたそうです」
 僕はお酒を美味しく飲む為に、あまり想像しない事にした。
 「さっき、銃の音が後から聞こえたって言ったっチャけど、どのぐらい後から聞こえたっチャか?」
お杉の質問には、広瀬さんも苦笑いをした。
 「ほぼ同時でした。差は理論上の問題です」
 「理論上って、どれ位だっチャ?」
 下らない事にこだわると、僕は思った。
 「ブレットの平均速度を、秒速八百五十メートル、ええっと、約二千七百八十八と四分の三フィートと仮定しましょう。又、犯人の射撃位置から倉井までは、百七十メートル、私が音を聞いた位置までは、百九十メートル、計算し易い様に、気温をセルシウス温度で十度としましょう」
 「じゃ、ほとんど同時だっちゃ!」
 と、お杉が叫んだ。
 「まあ、今の計算はデタラメの数値ですが、約〇.三六二七九六秒差ですね」
 と言った。流石に少し酔っているとは言え、広瀬さんは計算が速い。空気中では、音の波の伝わる速さCは、摂氏θ度の時一秒当たり、約「331.5+0.61×θ」メートルだから、音は一秒間に三百四十メートル近く進む計算になる。じゃあ、ほとんど同時だと言っても良いだろう。
 「駐在員はすぐ来たのですか?」
 僕はタコスで汚れた手をお手拭きで拭きながら、そう聞いてみた。
 「来たも何も、私の目の前で皿にカレーを注いでいました。給食の係をしていたんですよ。とはいえ事態を認識すると彼はすぐに冷静になり、現場を落ち着かせました。正に警察官の鑑とも言うべき人物でしたね。名前こそ知りませんが、私が同じ警察官として、尊敬している人物の内の一人です」
 そうかもしれない。駐在員っていうのは有事の際、たった一人ぼっちで、応援の到着迄頑張らなきゃいけないんだ。強靱な精神が要求される職業とも言える。
 「私は、駐在さんに自分の意見を述べました。犯行に使われた凶器が、ボルトアクションのライフル小銃ではないか、という考えをです」
 「それはどうしてですか?どうしてライフルだと思ったんです?」
 これは大事な事だと思う。ただの思い込みでライフルだと思う事は、捜査の幅をいたずらに狭める事になるからだ。川副警部が何時も僕らに言う、「予断と余談は禁物だろうが」というやつだ。

投稿者 strap : 2006年09月25日 02:33

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