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2006年09月18日

「墓石村事件」 4

 「映画は何だっチャか?」
 僕もそれには興味があった。いったいどんな映画を上映すれば、村お起しなんかになるんだろう。
 「ジョン・スタージェンスの「OK牧場の決斗」というものが主でした」
 「何故っチャか?」
 「本来墓石村は、八の力という字を書いて、やぢから、地元発音で、やじがっ。そういう発音のし辛い名前の集落でした。郷土史家によれば、やぢからというのは江戸初期からの名称だそうで、本来は世帯が八つという意味だった様ですね。しかし日清戦争直後、鉱山の需要が高まり、他の集落を取り込み、人口三百人程度の村に大きくなります。その編成の際名称を変えるのですが、中心となった八力集落の、八と力が片仮名のハカに似ている為、はか村に改名しようとしたのです」
 確かに「やぢから村」では発音しづらいから、他の名前が必要だったと思う。
 「しかしそれでは、音が破瓜に通じる為に格好が悪い。若い娘さん達は赤面してしまうでしょう。それで、同じ鉱山町であるトゥームストーンという、アメリカアリゾナ州の町にちなんで、石の一字を付け加え、はか石村。墓石村としたのです。それで、この映画だったという訳ですね。この映画の舞台は十九世紀後半の、トゥームストーンですから」
 なるほど。トゥームストーンには、グレイブヤードって名前の銀山が有るって話だし、昔の地元新聞は、エピタフって名前だったって話だ。トゥームストーンは墓石って意味だし、グレイブヤードは墓地って意味だ。エピタフは墓碑名だね。「はか」という名前と、鉱山の町という二つの共通項に、村人達は共感を憶えたんだろう。もっとも人口六千人のトゥームストーンは、行政区分上タウンであって、ヴィレッジではないけれど。
 「他にもスタージェンスの映画、「ゴーストタウンの決闘」、「ガンヒルの決斗」、「荒野の七人」、「大脱走」の四本が二日に分けて上映されました。「OK牧場の決斗」は二日とも上映しましたから、合計六本、一日三本のプログラムですね。本当は、同じスタージェンスの「墓石と決闘」を上映したかったのだそうですが、フィルムが見つからなかったのだそうです。しかし、どれもとても面白かった」
 カラカラと映写機の音が、上映用の施設ではない所で響くのは、何とも趣があるって、そう、僕も感じる事がある。そういう空間で見る映画は、格別面白い。
 「そうそう、「荒野の七人」でスティーブン・マックイーンの演じるヴィンは、トゥームストーンの出身なんですよ」
 僕達の話が真剣になってきたからか、マスターはここで短くなったタバコを指で弾いて空中で分解し、 「クリームの素晴しき世界」の上から針を退けてくれた。マスターの左手の中指と薬指の間は、両切りタバコをいつも吸うせいで黒く汚れている様だった。
 「OK牧場の決斗」は、アリゾナ州トゥームストーンで、西暦一八八一年十月二六日未明に行われた、実際のガンファイトを題材に作られた映画で、前世紀を代表する映画の一つだ。仕手連れのドクこと、歯科医のジョーン・ヘンリー・ホリデイの役をやっているカーク・ダグラスは、「ガンヒルの決斗」での保安官役でも有名なんだそうだ。
 「「荒野の七人」のヴィン役、スティーブン・マックイーンは、「大脱走」でヴァージル・ヒルツという名のアメリカ人飛行機乗りを演じているのですが、このヒルツの股がるバイクは良くできていましたねえ。一見するとまるで軍用バイクの様なのに、スピードは出るし、フェンスは飛び越えると、そのできは最高でした。しかし実際のBMWでは、あんなアクションは到底出来ないのだそうです。撮影で使われたバイクは、トライアンフTTスペシャル650というバイクだと、後に誰かが教えてくれました」
 「墓石村の鉱山では、何が採掘されているんです?」
 僕はタコスを摘みながら聞いてみた。
 「銅山がかつては有ったのですが、私が行った時にはもう、閉山していました。ですから現在の村の、主要産業は林業です。銅の産出が主産業であった関係上、鉄道、つまりJR久大本線は通っていますが、駅は既に廃止されています。そこは、交通の便も悪いので、陸の孤島という表現さえも、あながち間違いとも言えぬ様な場所なのです」
 銅は大戦中、導線や真鍮の原料として、軍需物資として重宝される。だから、鉄道がこんな辺鄙な場所にも通る様になったんだろうね。真鍮は、比較的柔らかくって、降伏しづらく、自縮性を持っていて、薬莢とするには最適な材料だ。だから、真鍮は英語で「brass」と言うんだけど、薬莢の事は真鍮製でなくても、金属製ならばブラスと呼ぶんだそうだ。例えば、排筴の向きを変える板の事を、ブラス・デフレクターなどと言う。まあ、それぐらい銃砲業界では大切な金属なんだね。
 「そこに映画を見に行ったっチャね」
 「はい。私は一人、ファミリアを飛ばし、そこへ向かいました」
 広瀬さんのファミリアロータリーSSのロータリーエンジンは、キャブレーターが四バレルの、ファミリアロータリークーペ仕様に交換してあるから、とんでもなく速いんだ。
 「映画は地元小学校の体育館で行われたのですが、そこは事件と直接の関係は有りませんので、話を端折りましょう。事件の本質を見る為に、多少の事実を端折る必要がある事は、ご存知の通りです」
まったくそのとおりだ。ここからはなるべく、本質的な情報だけを喋ってもらう方が望ましい。
 「事件は四月六日日曜日、映画の上映が全て終わり、夕方の食事会が開かれている時に起きました。まあ、食事会も宿泊も、小学校敷地内でしたんですがね。その時は五時を過ぎたぐらいの時間で、薄暗いといった感じでした。さて、事件の内容はこうです。村人と小学校の校庭を散歩していた村の有力者、倉井が、」
 そこは知っている。
 「狙撃されたんだっチャね、確か」
 そう、お杉が言った。
 「ええ。被害者、倉井育馬の頭が破裂しました。私もライスカレーを食べながら見ていたのですが、脳漿が飛び散ったのです。そしてその瞬間、バンという破裂音が聞こえてきました。それは明らかに、射撃による犯行でした」

投稿者 strap : 2006年09月18日 23:23

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