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2006年08月26日
「渾名の真相」 3-8
「君達はちびっ子の頃、貯金箱は持ってたかな?」
稲葉の話は、最初っから脱線で始まった。
「持ってたよ」
「ユキも貯金はした事ないっチャけど、可愛いのいっぱい持ってたっチャ!」
「その中に、人形の形をしたのは有ったかな?」
「いっぱい、いっぱい、有ったっチャ」
うん。僕もパンダ型のを一つ持っていた。当時は日中共同声明発表に伴う、両国の国交正常化の直後で、空前のパンダブームだったから。
「うん。先ずはそいつを思い浮かべて呉よ」
と稲葉は言った。
「ユキは、口からお金を入れるカエルさんとか、頭のてっぺんからお金を入れる坊やのお人形とか、頭の後ろに穴の開いているピンクのクマさんだとかを持ってたっチよう」
僕のパンダも、お杉のクマと一緒で、頭の後ろから硬貨を投入するタイプの貯金箱だった。
「そうかい。二人とも、それらをしばらく記憶しておいて呉よ。では、本題に入ろう」
「はいどうぞ」
「どうぞっチャ」
脱線は終わったらしいので、僕達は稲葉を促した。
「先ず最初に、オスギムラ君は先輩が、犯人のジェンダーを特定しなかった事を怪しいと思うよね」
「そうだっチャ」
「しかし僕はそれは、先輩が被害者を、ホモセクシャルの可能性がある事も含めて、循べたからだと思うんだ。だから、被害者がホモセクシャルである事を隠す為にそう言ったのでは無いと、僕はそう思うね」
そうかも知れないって思った。広瀬さんは恐らく、犯人が男か女かを、知らなかったか忘れていたか、憶えてなかったんだ。それに広瀬さんは、大きな括りの用語を使う事を好む人だ。僕達の言うピストルが、ハンドガンであったり、カードリッジがアミネーションだったりね。僕達がマイコンとかパソコンって呼んでいる物も、コンピューターとか、電算機って呼んでいる。それと同じ事かも知れない。
「それに君達の話を聞くと先輩は、「後頭部に傷口は見え無かった上に、出血は首の後ろ当たりからしていた様に見えた」だとか、「傷口が見えずに、出血場所がズレている」なんて言っているよね。それが、女子学生が首や後頭部の意味を知らなかったって正解で良いのだろうか。それが正解ならば、出題のアプローチ自体に問題があると僕は感じるね。しかし先輩は、そういうアンフェアな人じゃないんだろ」
確かに。広瀬さんは、フェアプレイ精神の持ち主だ。
「だからね。真実はもっと別の物なんだ。尤も、真実はもっと平凡な、もっともらしい現実だけどね」
「だけど、渾名の件は、ユキの説明で間違い無いっチャろう?」
とお杉が問うと、
「いや、あのニックネームの件こそが、このクイズの謎を解く、重要なファクターなのさ。そこから如何に連想するかが、この問題を読み解く、大きなポイントだと言っても良いだろうね。ここで解釈を謬っては、真実は永遠に看えない」
と稲葉は答えた。
投稿者 strap : 2006年08月26日 00:04