« 「渾名の真相」 3-4 | メイン | 「渾名の真相」 3-6 »

2006年08月23日

「渾名の真相」 3-5

 僕がその事をお杉にいうとお杉は、
 「ユキもあれはわからないんだっチャ。うまい仮説はたてたんだっチャけど、どうも最後で躓くんだっチャよう」
 と言った。
 「いや、仮説をたてられるだけ凄いよ。僕なんか全く想像がつかないもん」
 と、僕が言うと、
 「君達、何の話だい?」
 と稲葉が尋ねてきた。それで僕達は顔を見合わせ、稲葉にこの事件について一緒に考えてもらおうって思ったんだ。それで、僕とお杉があの事件について、稲葉に語って聞かせた。
 「貯金箱」って呼ばれていた世界経済担当の教員が、商学部だか経済学部だかの学生に殺されていた事。しかも後頭部をスキャナーで殴られたはずなのに、首から出血していた事。事件は直後に沢山の人に見られた事。事件現場は大学敷地内の建物内で、「貯金箱」さんにあてがわれた部屋だった事。
 僕達の話を聞き終わると稲葉は、
 「位置関係からすれば、加害者の学生を、施錠されていない部屋に残したまま、「貯金箱」は出入り口方向に向かおうとしている。そこを彼は襲われた訳であるから、学生の主張する正当防衛が、間違っても認められるケースでは無いね」
 と謂い、
 「先ず最初に、折角考えがある様だし、オスギムラ君の意見を拝聴しようじゃないか」
 と、僕に提案したんだ。僕はこの時、稲葉もわかんなかったんだろうって思った。だから僕はその提案に頷き、そしてお杉が推理を披露する事に成った。お杉はかなり深いところ迄推理している様だったから、お杉の推理をヒントに、僕も稲葉も事件の真相に気付くかも知れないって、そう思ったんだ。
 「では、ユキの推理を披露するから、良おーく聴いてほしいっチャ」
 「では、早速始めて呉給え」
 お杉の言葉に稲葉がそういうので僕も、
 「はい、どうぞ」
 と言った。
 「先ず最初に言える事は、広瀬さんは常に、加害者を「加害者」だとか、「学生」ってしか呼んでないって事だっチャ。女子学生や女子大生、女学生、女生徒、彼女だとかって、性別を特定する様な単語は、まるっきり避けてるっチャよう。つまり、加害者を女だとは、一言も言って無いんだっチャ!」
 確かにそうだった。思い出してみれば確かに、広瀬さんは一度も、加害者を女性だとは言わなかったね。お杉はこういう細やかな事に気付く、能れた男なんだ。男性の恋愛対象を女性だと限定する考え方は、「卵を産む動物は、哺乳類ではあり得ない」って発言する位、無知で視野が狭い間違いだ。
 「それどころか広瀬さんは、被害者のラブの対象も、学生としか言って無いんだっチャ」
 「良く気が付いたねえ。続けて呉」
 稲葉もまったく感心してお杉の話を聞いていた。
 「ご同輩は、被害者の「貯金箱」って名前が、事件の謎を解く重要な手掛かりって考えたっチャね」
 僕は頷く。
 「だけど以上から考えるに、「貯金箱」って渾名は、事件に大した意味は無いんだっチャ」
 と、お杉は謂った。
 「えっ?どうしてそうなるの?」
 僕の質問にお杉は、
 「「貯金箱」って名前は、ホモセクシャルって意味だからだっチャよう」
 と言った。どうしてそうなるんだろう。隣を見ると稲葉が、何やら嬉しそうに、ニヤニヤとしていた。
 「被害者と加害者がゲイボーイだって事は、今の君の説明で大体想像がついたよ。だけど何で、その渾名がゲイボーイを意味してるんだ」
 僕はあらためてそう聞いた。
 「「貯金箱」って渾名は、その前は「貯金瓶」って名前だったんだっちゃ。だけど今じゃ瓶に貯金する人って寡なく成ったっチャろう?だから、どこかで「貯金瓶」の本当の意味を知らない学生の時代に、「貯金箱」って間違った名称に変わって了ったんだっチャよ」
 「何だいそれは。説明に成って無いじゃ無いか。まあ、仮に君の推理が正しいとしよう。だけど、どうしてそれで、「貯金瓶」がゲイボーイって意味に成るんだい?」
 僕は全くわからなかったんで、又そう言ってみた。何だか同じ質問を三度もした気分だ。
 「それは、世の中の多くの人が、トランスセクシャルとホモセクシャルを混同しているからだっチャ。オカマやミスターレディーって呼ばれる人達って、一部の人は外国とかに行って性転換手術だとかって肉体改造を受けるっチャね? それだと勘違いされたんだっチャよ。だけど、ホモセクシャリストはトランスセクシャリストとは違うから、ナニは切らないんだっチャ。つまり、「貯金瓶」とは本来「チョッキン・亀」、ナニを切り落としたって意味だったんだっチャよう」
 なるほど。「貯金」というのは、切り落とす鋏を意味した擬音で、「瓶」は亀だったと言ったのだ。つまり被害者は、亀の頭を切り落としているって意味の渾名で呼ばれていたんだと、お杉は推理したんだ。ペニスがないってのはオカマの象徴であるし、世間の人はゲイとオカマを混同しているからね。まあ、被害者が事実ゲイボーイであるならば、それは当然必要で、股間をブラブラしていた筈なんだけど。
 「君の言いたい事はわかった。つまり、被害者の渾名の本来の意味は、オカマだったんだけど、それはゲイボーイとオカマを勘違いされた事に起因する物だって事を、循べてる訳だね?」
 僕はそう訊ねた。
 「そうっチャ」
 「そしてその渾名が永い間使われるうちに変化して、本来の意味がわからなく成ったって事だね。そしてそれは、この事件の犯人が男だって事を示す以外に意味は無いって、そういう事なんだろう?」
 「そう、まったくそのとーりっチャよう」

投稿者 strap : 2006年08月23日 01:06

コメント