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2006年09月15日

赤壁鏖兵 第三回 「後方指揮所 呉侯本陣」

対艦用の焼夷弾二十八発が高く打ち上げられ、落下し水面を火が覆う。
そして又二十八発。
再度二十八発が。
火は燎原を焼く様に拡大し、河を焔が覆った。
最早戦闘と呼ぶべきものでは無い。
曹操軍の艦船が次々と沈んでいく様が、遠く離れた呉侯の本陣でも見て取れる。
法宝制作の大家、仏九沙菩薬祈伊博士の最高傑作、「迪斯艾斯瑪琪納」。その、今週の山場が行なわれているのである。大陸間弾道弾まで撃てるその艇の力は、人の世では圧倒的に過ぎた。
「あれこそが、仙界の水雷戦研究学会推薦兵器ですよ」
あまりの恐ろしさに小便を漏らしながら、孫権は解説をする司馬通を見上げる。秘密結社熒惑星の八人の大幹部の第七席司馬通。
「この戦い、曹操は負けます」
「ああ、あんなものがあっては、勝てる訳が無い」
「そうです。我々はそれを知っていたので、曹操に主力を赤壁に集めぬよう、進言したのです」
つまり、曹操はあれだけ艦船を焼かれても、実際はそれ程の被害を出していないのであった。
「では何故、曹操は兵を焼かれる!」
震えながらも、精一杯の虚勢を作ろうと孫権は努力して言い放った。
「お手前がそういう間抜けだからですよ。あなたに見せる為です」
それに対し、司馬通は静かな顔で言い放つ。
「聞けばお手前は、荊州を劉備に渡すと、そうお約束されたとか?」
「そ、そうだ」
「ほら、お手前は極上の間抜けだ」
「何!」
孫権は睨み返す。
「考えても見なさい。劉備にはあの兵器があるのですよ。あの兵器があれば、お手前ご自慢の水軍など、紙で出来た兵と何ら代わりありません」
司馬通は一拍置き、頭の回転の鈍い孫権の反応を待ってから伝えた。
「荊州を与えれば、次はお手前が滅ぼされましょうよ」
司馬通に教えられ、孫権はやっとその事に思い当たる。
そして事の重大さに気付いた。
「ど、どうすればいいのだ、雅達よ」
策に嵌った孫権を見て、司馬通は思わず北叟笑む。
「荊州を攻めなさい。陸戦であればあの兵器もただの鉄の塊。広い河川が無ければ無用の長物です」
「しかし荊州にも河川はあろう」
孫権は力無く反論するが、しかしそれには司馬通が自信ありげに答えた。
「あの潜水艇は、対潜水艇戦闘が苦手なのですよ。敵に潜水艇がある事等、全く考えられずに設計されているのです」
酷く当たり前の事であったが、孫権は素直に感心した。
「では、こちらも潜水艇があれば、奴を撃破できるのだな」
「そうです」
司馬通は静かに応える。
「ならお前は、奴を破壊する為の艦を提供してくれるのか?」
「いえ、我ら熒惑星は別のものを提供します」
「別のもの?」
「はい、艦船よりも運営が簡単な兵器です」
「それは一体なんだ?」
孫権は急かす様に焦って訊ねる。
「改造人間ですよ」
「改造人間?」
「はい。人工鰓と推進器を取り付けた、水中戦専用の改造された兵士の部隊です。これで仮若あの潜水艇が出てこようとも、葬り去る事が出来ます」
「おお、それは良い」
孫権は嬉しそうに膝を打つ。司馬通の話し方から、どんな兵器かは察っせなかったものの、凄い兵器である事は理解したのであろう。超自然の単語が出たにも拘らず、全く怪しまず素直に喜んだ。
しかし逆に司馬通は残念な顔を作ってみせる。
「しかし我々も、流石に無料で提供する訳にはいかないんですよ」
司馬通の残念そうな表情は見事な演技であったが、それに気付かぬ位に孫権は興奮していた。
「何だ、金子か?」
「はい、それも戴きます。しかし……」
「何だ、言え」
「はぁ。実は実験が未だ完成していません。出来れば時間と、実験用の屈強な兵士を五十人程提供して欲しいのです」
「それは時間が掛かるのか?」
孫権も流石に訝しい顔をして聞き返す。
「はい。しかし完成までは必ず、呉侯の領土は我ら熒惑星がお守りいたします」
「それは誠か?」
「二言は御座いません」
「ならば雅達、貴様に任せる!」
孫権は強気に言い放った。
「流石は呉侯。賢明な判断です。で、屈強な兵士五十名の方は……」
司馬通の肝心な要求の言は、孫権が闊達に遮る。
「国を護る為だ。兵士の体の五十や百、安いものだ。おい、馬忠。お前が選別して、司馬殿の必要なだけ、実験体を集めよ」
深く頭を垂れる司馬通の顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。

投稿者 strap : 2006年09月15日 03:03

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