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2006年02月01日

自作解説:実験掌編小説三篇

今回は、「漆黒の躯」「謀臣の資質」「戦乱の序章」と続く三作を解説したい。

●目的
三作は、普段書く文章とは文体作風を変えて書く事を目的としている。これは自身の練習であると共に、三国志小説として、これらのものが成立するかを実験したものである。

●作品傾向
三作は、史料にあたる事の少なかった作品であり、三国志との関連性はどれも稀薄ではある。

●実験目標
それぞれに、以下の実験を目標とした。

・「漆黒の躯」   SF的作品。三国志の登場人物が人造人間であるという設定で書いた。

・「謀臣の資質」  自作としては初めて、三国志小説に「女性」の概念を入れた作品。回想として、妻とのSEXシーンを簡単に入れる。又、自作として始めて擬音をひらがなで書いた。

・「戦乱の序章」  登場人物がカタカナ語を喋る作品。又、作品というよりも、架空作品の予告編という意味合いの作品。

又三作は全て「俺」を自称する一人称の作品とする事を決めて制作した。

●タイトル
三作はどれも、「AのB」とするタイトルとルールを決めている。
タイトルの内容よりも、発音した時の整い、調子を重視した。

・「漆黒の躯」   三国志物語の登場人物で、体の黒い人と言えば、周倉である。本来「Aの疾風」若しくは「疾風のB」というタイトルを考えたが、安易なので没。「漆黒」で始まるのは、「疾風」の音の名残である。

・「謀臣の資質」  「謀臣」の語は、作品本来の意味から言えば、「謀士」の方が近いが、音を重視して、「謀臣」とした。又「資質」は本来、「先天的な能力」という意味であり、「後に身に付いた能力」という意味はもたないが、矢張りこれも音を取って無視した。初期タイトル「謀士の才能」。

・「戦乱の序章」  「戦乱」という言葉に違和感があるが、使いたいので使用。元ネタは「奇書三国志」で有名な伏見氏の「ブルーフォレスト戦乱」。又、「序章」という程の時期を描いている訳でもないが、「戦乱」と組み合わせた時の音からこの語を選ぶ。

●中島敦作品からの影響
本三篇は、文体と作風を変えて書く事を目的として書いた作品である。
故に、知らぬうちに影響が滲みでてきている様に分析する。

例えば、「漆黒の躯・第三回」などは、中島敦作品「悟浄出世」における沙悟浄と南海の観世音菩薩摩訶薩とのやり取りの影響を受けている様に思う。同回で左慈が

「見事な領解である」
と言ったり、「漆黒の躯・第四回」で、周倉
「神鎚に撃たれ己を得、そして今峨嵋山の左老師に値遇し、豁然大悟致した。浄業する名を周倉と云う」
と、仏教の用語を用いるのもこの為である。
「謀臣の資質・第一回」
事態に気付いた俺は一度、「ヲォーっ」っ、と獣の咆哮に似た叫びを上げると、剣を振り回して男の家を出た。無我夢中であった筈なのに、何故か夕月の暗さと秋風の冷たさを覚えている。それは俺の記憶では無く、後の印象だったのかも知れない。何にせよ、どちらでも好い事である。
というシーンは、「山月記」の
一年の後、公用で旅に出、汝水のほとりに宿った時、遂に発狂した。或夜半、急に顔色を変えて寝床から起上がると、何か訳の分からぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。彼は二度と戻って来なかった。
というシーンに似ている。主役である李儒が、「獣の咆哮に似た叫びを一度上げる」のも、「三月記」の主役である李徴が虎になる事を無意識のうちに思い出したのだろう。又「謀臣の資質・第三回」
遂に最期の時が迫っていた。
という文句は、「山月記」の
もはや、別れを告げねばならぬ。
の影響が色濃い。
参考:中島文学からの影響

●各作品の紹介記事
各作品の紹介記事へアンカーを飛ばす

・「漆黒の躯」連載開始:http://www.mojika.com/flog/archives/2005/11/post_70.html

・「漆黒の躯」途中解説:http://www.mojika.com/flog/archives/2005/11/post_74.html

・「謀臣の資質」連載開始:http://www.mojika.com/flog/archives/2005/12/post_81.html

・「謀臣の資質」あとがき:http://www.mojika.com/flog/archives/2005/12/post_86.html

・「戦乱の序章」連載開始:http://www.mojika.com/flog/archives/2005/12/post_88.html


●総論
表面的な作風と文体を捨てる事で、本質的な自分の作品が見える様になった気がする。
もうこの様な作品を書く事は無いと思うが、自身の身になった三作であった。

(2006年7月1日の追記)
「漆黒の躯」公開を中止。

投稿者 strap : 2006年02月01日 17:45

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