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2006年01月13日
三国志掌編小説「戦乱の序章」第三回・最終回
虎牢、汜水の両関ばかりに気を取られていたが、敵は又もや万を大きく超える大軍を梁の東部に集結させつつあった。これを重要視した我が軍ではレッドハットのコードでこれを呼び、四千の兵でこれに当たる事が決定した。無論、数が違いすぎるのだから、壊滅を目的とする訳ではなく、潰走を目的として当たるのである。これは大変に難しい任務であった。
さて、これに当たる三名の人選が行われたのであるが、ここに何故か間違って俺の名までが挙がってしまった。
任務に当たる指揮官三名。
キャプテン張遼。
キャプテン郭汜。
メジャー董承。
最悪だった。
俺は郭汜の蛮勇を誇る事、董承のインテリぶったところが大嫌いで、出来れば顔を会わせたくない位なのだ。無論二人もそれぞれ俺を嫌っていたし、しかも両名とも、それぞれにお互いを嫌っていた。つまり、三名が三名とも、他の二名を嫌っていると言う組み合わせだったのだ。
最悪だ。こんなものでチームワークなど求められよう筈も無い。李参謀総長の真意が俺にはわからなかった。
とはいえ、四倍以上の敵に当たらねばならないのである。俺は二人に提案をした。
「俺が早朝、一千でフランキングを仕掛ける。二名は三千で敵を前面から牽制して戴けないであろうか」
これに反対したのは、郭汜であった。
「今は軍の一大事。勝てるやり方を選ぼうでは無いか。敵の撹乱ならば張遼、貴様より儂の方が優れる。儂が前面から突破してみせるわい。貴様こそ牽制を担え!」
郭汜は俺を戦場で見殺しにする気は無いらしい。己こそが危険な仕事に適任だと主張した。しかし如何に敵が弱卒といえど、数が違いすぎるのである。前面突破など、失敗は目に見えている。それで俺は声を荒げようとした。しかしその時。
「私は張遼の意見に賛成です」
と、董承が発言したのだ。それで俺はなんだか勢いを削がれてしまった。
「貴様、俺が張遼に劣るとでも言うのか!」
当然の事ながら郭汜が声を荒げる。
「いいえ。あなたの突破力が大きな武器だからこう言うのです。もう一度確認しますが、敵は数が多く、強力です。我等は協力し、それぞれの持ち味を生かして、敵を崩さねばならぬのです。それが帝の為でもあります」
董承が説明を始める。
「今回の役割に、危険で無いパートなどどのみち無いのです。各々が帝の為にベストを尽くさねばなりません。大きく撹乱をした後、敵には大きな隙が生まれます。そこを付いてこそ勝利が生まれる。撹乱を起こすのがご貴殿であれば、その後の攻撃を私か張遼が担わねばならない。それがベストだと、ご貴殿はお思いか!」
郭汜はしぶしぶ頷く。
「確かに、撹乱は張遼にも出来るが、突入は俺にしか効果的に出来ぬ仕事だ。撹乱は張遼が適任だ」
実にそのとおりだった。敵のセンターに真っ直ぐと突っ込む蛮勇こそが、この男の持ち味なのだ。頭の切れる俺には到底真似の出来ない事だった。
「俺が撹乱する為には先ず、粘りのある牽制が必要です。これは‥‥‥」
「解っている。私が適任だろう。君への注意をそらし、郭汜の兵を巧く温存させよう」
こういう事で、プランは巧く纏まった。
さて、そうと決まればオペレーション実行である。俺は夜間のうちにひっそりと八百の歩兵を連れ、そっと陣から離れる。そしてじっと敵の油断する時間を待った。
暁が夜明けを教える頃、董承率いる兵が、レッドハットへと襲い掛かる。無論後方には郭汜が控えていた。敵は突然の襲撃に、慌てふためき、既に参を乱している。
レッドハットの軍を率いるのは、孫堅という野蛮人である。陣の後方、つまり俺が襲い易い位置に、我々がフェドーラコアの名で呼ぶ本陣を設けていた。「グランドサン」という旗印の回りでも、未だ混乱は収まってはいない。俺は今だとばかりに襲い掛かった。
おお、敵の何と弱い事であろう。俺は八百の歩兵を用いて、散々に敵陣を駆け巡る。
遂に孫堅その人を目標に捕らえる。孫堅は驚きの表情で、馬上にありながら腰を抜かしていた。
「張遼。つ‥‥‥強すぎる!」
俺は敵の言い分に笑って了った。
「これが兵の数にばかり頼ってきた君と、激戦を潜り抜けてきた俺との、力の差だよ!」
同時に吶喊が上がり、郭汜の突貫が始まった。我々の勝利はここに決まったと言える。
しかし俺が孫堅を捕らえる事はなかった。何故ならば、俺の軍に敵の祖茂という男の一部隊が決死の攻撃を仕掛けてきたので、退かざるを得なかったのだ。敵にも骨のある奴が一人はいたという事か。
祖茂は無論斬ったが、その隙に孫堅は逃げおおせて了ったのである。俺は大物を逃がしたらしい。
戦い終わり、俺は今日の勝利を喜んだ。しかしやはり、フェドーラコアを叩き損ねた事が悔やまれる。
しかし朝日を見ながら俺は考え直した。
そうだ。まだ「戦乱の序章」でしかないのだ。お楽しみはこれからだ、と。
そう。まだこれは、プロローグにしか過ぎないのだから。
了
投稿者 strap : 2006年01月13日 19:25
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