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2005年12月19日

三国志掌編小説「戦乱の序章」第二回

曹操を襲撃する事に失敗した後、陽人で勇将華雄が討たれると、互いに膠着状態となってしまった。延々と両軍は、虎牢、汜水の両関で睨み合っている。
今俺は、洛陽の南五十里にある虎牢の関にいる。共に僅か一万で護るのは、呂布と、その配下の八健将のみである。
敵は圧倒的な大軍で、我々に妙策無く、又、将帥、士卒が足りず、迂闊には動けない。ここは耐えて禦りに徹するしかなかった。
一方敵側から見れば、両関は難攻不落の天険の要塞なのである。矢張り損害を考えると迂闊に動く訳にはいかなかった。
とはいえ、五万を配した汜水関とは違い、虎牢の兵は僅か一万。敵軍はこちらの関こそがウイークポイントと、続々と集結していた。
では何故、謀士李儒はこちらを手薄にしたのか? それは虎牢の関の方が堅いからでは無い。呂布と、そのファミリーがいたからである。
呂布と、その配下の八健将、成廉、魏越、侯成、高順、薛蘭、李封、宋憲、魏続の九名は、官軍きっての用兵家集団である。呂布ファミリーの得意とする、そのスピーディーな戦術の右に出る者はいない。無論、純粋に戦術家として見るならば、曹操配下の陳宮には若干劣るかも知れない。先日の逆襲では、アンブッシュに因るフランキングを以って、彼がスナイパー戦のオーソリティーである証を我々にはっきりと示した。これは確かに、「衆に秀でている」といった言葉では足りないスキルだった。
だが、呂布等には、戦術家としての枠のみに収まらない強さまでがある。総合的に考えるならば、同じ位に強い。
彼らは各々が特別武術に優れたし、それが為に錬兵に秀でた。ジェネラル呂布は勿論のこと、カーネルからプライベートに至るまで、皆が勇壮なソルジャーチームなのである。「ヒーローの下に弱卒無し」という言葉を、まるで真であるかの様に錯覚させる。
又、個々を見ても超一流に属する局地戦のプロフェッショナルであるが、それらは連携した時に素晴らしい力を見せた。一は全を補い、全は一を輔ける。その様なコンビネーションを得意としていた。
つまり、千で万を破る事など、彼らにとって見れば、容易い事だったのである。畢竟するに、この虎牢の関は僅か一万で守っているとはいえ、その実二十万の敵にも耐えうる強さを持っていたのである。
そういう訳で、この時両軍は退治した侭、互いに苛々と時を過ごしていた。
そうしている中での、晴れの日の事である。矢張り敵にも短気な奴がいるらしく、単機で進み、鶴膝を掲げて大声で怒鳴っている男が現れた。
「吾はすなわちスワローマン張飛。呂よ来たりて勝負せよ!」
貧相な黒鹿毛に跨るその男は、その乗騎で身分高からずと判別できる。しかしその男が矢張り武術に優れている事は、否応にも隠せない。目の前の虎鬚が膂力を誇る事は、子供にも判る事だった。
呼びつけられた呂布は微笑み、「暇潰しに丁度好い」などと喜ぶ。そして薛蘭が止めるのも聞かず、矢張り単機で駆けて往った。
さて、打ち合いが始まると、大方の予想どうり、全く相手には成らなかった。
無論、駄馬同然の馬に跨りながら、辛うじてでも呂布の攻撃を防いでいるのだから、スワローマン張飛が強い事は疑い様が無い。呂布のパワーに押し切られる事も無く、良く耐えている。正直に言うが、俺などよりは遥かに強いと言って良いだろう。八健将と同程度の強さはあるのでは無いだろうか。しかし、呂布という男は格別に強いのだ。全く相手には成らなかった。
乙女は憧れ兵は慄く、戦場を駆ける深紅のレイザービーム。赤き鎧に身を包む海内の剛勇。それが呂布奉先なのである。
それで敵陣後方から、グレイブを担いだ一人の男が駆けて来る。スワローマン張飛に鬚髯の美しい大男が助太刀に入った。
二人は左右から、時には前後から同時に掛るが、呂布は画戟の両端を使って巧く防がぎ、、逆襲した。戦場の全ての人が息を呑んで見守る中、放電現象でも観るかの様な、激しい打ち合いが蜿蜒と続いた。
二つのポールアームは激しくかち合い、スパークする。二人掛かりでも、僅かに呂布にアドバンテージがある様に思われる。
その強さは無論、呂布自体の強さでもあったが、それは同時に馬の差でもあった。
呂布の駆る馬は、特別俊敏で、特別力強く、特別胆力のある、特別大きな、赤莵という名の特別賢い特別なウォーホースだった。その緋色に近い栗毛の軍馬は、高貴な風格を感じさせる気高き馬で、人々に「人中の呂布、馬中のレッドヘアー」などと評させる程なのだ。項羽が駆った烏騅とて、これ程の名馬ではなかったであろう。二名の跨がる青鹿毛と黒鹿毛は丸っきりの駑駘であったので、ツーマンでも呂布を圧せ無いのである。
とは言え、スワローマン張飛と鬚の男が只者で無い事は良く判る。身分は低いがかなり強い。これから先、大きな敵となるだろう。何と言っても今は、「戦乱の序章」、つまりプロローグでしか無いのだ。大きく飛躍するチャンスはある。
到頭決着が着かずに引き上げて来た時、呂布は汗を拭いながら、爽やかに述べた。
「何とエキサイティングな事だろう!」
命のやり取りをしながら、それを楽しむ事の出来る呂布の神経を俺は信じられない。それは配下の者も同様らしく、李封がそれを咎めた。そうすると呂布は清々しい顔をしてこう言ったのである。
「否、否。無論あのダブルスも優れていたし、愉しかったさ。しかし俺が謂うのは赤莵の事だよ」
皆意味が解らず続きを待つ。
「赤莵の奴、あの関羽という男を見て、目の色を変えやがった。賢いから赤莵は、関羽が強敵と知ったんだな。それで本気になりやがって。こっちは遊びのつもりで跨ってたから大変だったよ」
俺と八健将は関羽の名を聞き、ビックリしてしまった。何故ならば陽人の戦いで、都督華雄を斬った男の名こそが、「関羽」と伝わっていたからである。

投稿者 strap : 2005年12月19日 00:40

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