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2005年08月14日

男が泣きたい時

少年時代、僕は「男とは悲しい事があっても泣かないものだ」と思っていた。
しかし今、それが間違いであった事を知る。
「泣かない」のでは無く、精神構造の為に「泣けない」のだ。
僕は自身の経験でそれを知った。

世の中には辛い事もあるし、寂しい事、悲しい事。沢山ある。
そんな事態に出逢った時、泣く事が出来たなら、どんなに楽な事だろう。
プライドも、意地も外聞も、全てをかなぐり捨て、声をあげて泣く事ができたならば、どんなに発散できる事かわからない。
しかし、「男」というのは、己に「男」という認識を与えた時点で、自分の為に泣く事は出来なくなるらしい。
その精神構造が、己の為に泣く事を許さないのだろうか?
男としての誇りなどは捨て去り、いっそ泣いてすっきりしたい。そういう思いをしているにも関わらず、男は泣く事が出来ない。一滴の涙も零れないのである。
泣く時は常に、他人の痛みの為であるか、人の優しさに触れた時でしか無い。「男」とは、何と不器用な生き物であろうか。

僕の自作においても、三国志の登場人物達は、己の為に泣く事はしない。泣く時は常に他人の為である。本人はただ、悲しそうな顔をするだけである。泣いた時は、既に「男」では無い。

太祖は涙ながらに、殺されに向かう陳宮を見送ったが、陳宮が振り返る事は無かった。

陳宮が死ぬ時、曹操は人目を憚らず涙を流したそうだが、それは慟哭であったのだそうだ。ならばそれは、陳宮という雄奇な才能を惜しんでの事では無いだろうと、張遼はそう思う。

僕の作品上での解釈はおいておいて、陳宮の処刑の際、曹操は陳宮の為に涙を流したと記されている。しかし陳宮が涙したとの記述は無い。しかし陳宮もまた、心情的には涙していたのだと思う。自分の死を惜しんでくれる男の涙を嬉しくない筈がないからだ。しかしやはり、己の死に直面している以上、「男」である陳宮は泣けなかったのだと思う。
CORRUPTION OHOTOMO EDITION 2004 は天草さんの作品のリメイクなので、この作品で僕は泣く人を書いたが、しかしその人は既に「男」を辞めている。

途端に恐怖が押寄せて来る。急に生への執着が強まり、涙溢れた。
「厭だぁ!厭だ孟徳!儂とは西園八校尉以来の親友では無いか!死にたく無い。死にたく無い、死にたく無い。許して呉れ!儂は役に立つぞ。儂を生かして損は無い」
 儂は恥も外聞も無く、泣きじゃくり曹操に訴える。大声を出し、叫び、訴えを聞かせた。鼻汁が口に入り、唾液と混じって地に垂れる。儂は這う様に前に出て頼んだ。後世に汚名を残す位ならば、今日の自尊心を捨てた方がまだ良い。無能な将という評価よりは、まだましだ。

夏侯惇の言葉の後、淳于瓊は子供の様に泣叫びながら、必死に命乞いを続けたが、最早それは無駄な努力であった。この様に覚悟の無い男、曹操が欲する筈が無いのだ。私は余りの痛々しさに、早く殺してやれとそればかりを心の内で唱えた。闊達で強気が過ぎる淳于瓊を必死で思い出そうと努力した。高潔な魂の、義理に熱い男の姿を。哀れで惨めな友人を、これ以上意識したくは無かった。卑屈に頼み、必死に諂う彼の姿は、最早私の知るどの淳于瓊でも無い。私にとってこれは、辛い、非常に衝撃的な出来事だった。私は親しいつもりで、友人の事をまるで知らなかったのだ。淳于瓊がこんなに弱い人間だったとは。私は彼を誤解した儘、三十年も付き合って来たのか。

同作品では

曹操が私の名を呼ぶ。瞼開き、顔を上げ見ると、曹操は未だ後ろを向いた儘であった。若しかすれば、彼も又哭いていたのかも知れない。
と書くが、これはやはり意味合いが違うであろう。


さて、本題であるが、執筆を数行で止めていた呉書シリーズの新作を書こうと思う。久しぶりに時間が出来たからだ。しかし、短い話にはなるだろう。
ここでは泣きたいのに泣けない男が悲しみを紛らわす方法を書こうと思っている。楽しみにしてほしい。

記述者 strap : 2005年08月14日 23:27

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