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2005年08月19日

英雄と名将の立つ風景 第0回

魔人だ。
重い攻撃を受け続ける鮑忠はそう感じた。
奴は魔人に違いない。
一騎打ちの相手である華雄は、魔界の空気を纏うかの様な気迫に、人を喰らう様な禍々しく恐ろしい表情をしている。その姿は人にあらざる事を象徴するかの様に妖しく、おどろおどろしい。虎の体に狼の腰、豹の頭に猿の臂。奴は本当に魔人なのでは無いかと鮑忠は疑う。呼吸障害の為その呼吸は荒く、苦しそうな音を立てるが、それが逆に男の不気味さを際立たせる。
それは正に、人にあらざる者の形相だった。永劫の闇より這い出してきた、魔界の住人の強さだった。
石突での突きを流せば、右から斬りつけてくる。右の攻撃を防げば、その直後に左からの打撃が襲う。戟の両端を使った華雄の攻撃は速い上に予測不能で、しかも重い。手綱を持つ事無く、股のみを使って黒鹿毛を自在に操る。百戦錬磨の鮑忠も、この様に強い相手は初めてだった。怖ろしい程に手強いと舌を捲く。なんという強力であろう!
早鐘を打つ様な速度で、右から左からと、打突斬撃が繰り出され、鮑忠は対応に追われる。一撃一撃が重く、鋭く、その為手が痺れる。しかも攻撃が変則的で、通常の武術の型を大きくはみ出しており、防ぐのが大変に難しい。叩き落とした突きが変幻自在の変化を見せ、思わぬ所から攻撃を仕掛けられる。「見えざる手」の異名は伊達では無い。無論、鮑忠であるから対応出来ているのであって、並みの者ならもう落馬していようという勢いであった。
華雄の攻撃は、音楽的とすら感じる程の凄まじさで鮑忠を追う。鮑忠も必死に防ぐが、それは無様なものでは無く、華雄のあまりに速い攻撃の為に華麗ですらあった。二人が演じる攻防のそれは、舞いを踏むかの様に艶かしく、美しい。それは妖しくも不吉な舞踏だった。
鮑忠は必死に防ぎつつも、攻撃の機会を窺う。隙を見せぬ程の華雄の攻撃。しかしそれを受けつつも勝利を諦めず、慎重に勝機を探す。端からは防戦一方に回っている様に思えても、決して鮑忠は攻撃をしていない訳では無かった。その重圧、魔人の如き強さを誇る華雄とて感じている筈である。そんな時、華雄が大きく戟を振り被った。
一瞬の隙を突くべく、鮑忠は素早く突きを入れる。僅かな傷さえ付ければ良い。僅かにでも傷付ける事が出来たならば、この速度は鈍る筈だ。そう考える鮑忠はこの一瞬に賭け、電光石火の一撃を放った。
それと同時に、華雄は長大な戟を振るう。
それは一瞬の出来事だった。
本来であれば、鮑忠の攻撃が華雄に小さな傷と、大きな隙を作った筈である。
しかし。
華雄の攻撃は、速いに過ぎた。
鮑忠の予想を超えて速かった。
しなやかな筋肉が、華雄に俊敏な動きを与えていた。
鮑忠の首は戟に跳ね上げられ、高く宙を舞う。
薄れる意識の中鮑忠は、揺れ落ちながら馬に跨る己の体を眺めた。


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投稿者 strap : 2005年08月19日 02:45

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