« 英雄と名将の立つ風景 第七回 | メイン | スターウォーズやっと見ました »

このweblogのエントリーベスト10はこちら→ベスト10
周倉に関するエントリー

Syndicate this site (XML)
ukiぺであの利用者ページ
mixiキーワード「理路整然
twitter始めました。

2005年08月27日

英雄と名将の立つ風景 第八回

「敵は絶大な信頼のある華雄が斬られ、意気消沈する筈だ。ここを好機と捉え、今総攻撃に出るべきであろう!」
 と曹操は主張するが、袁紹は曹操を、そして関羽を信用してはいない。曹操に
「あの汚ならしい弓手が華雄の首を取れると、本気でそう思っているのか! 弓手如きに斬れるものなら、苦労はせん」
 と言い睨む。それで曹操は、
「あの男に華雄が斬れる事は保障しよう。若し斬れねば、俺が貴殿の家来となっても構わん」
 と哂い挑発する。広陵太守張超は、そんな約束をして良いものかと、曹操を心配に思った。
「孟徳。貴様、その言葉忘れるなよ!」
 と袁紹が激高すれば曹操は、
「忘れぬよ」
 と不敵に嗤う。夏侯惇が
「加えて、我等一同、皆従い、袁将軍にお仕え致しましょう」
 と言うと、曹操の後ろに控える者皆が一様に頷いた。この曹操の自信は何なのかと、張超は益々心配に感じた。それは隣に座る鮑信も同様らしく、
「総攻撃には賛同するが無謀だ。華雄を斬れる筈が無い」
 と、心配そうな目をして小声で張超に言う。しかし鮑信の意見に賛同すれば、曹操が賭けに負ける様な気がして、張超は
「未だ判らんさ」
 と言った。無論、部下に聞かれれば士気に関わるという事も配慮した上での発言である。
 それに、そこまで言わねば袁紹は矢張り動くまいとも考えるし、仕方の無い事かとも感じている。
「良かろう。孟徳、貴様がそこまで言うのなら、総攻撃をしてやろう。各々方、異存は無いな」
 と、袁紹は場を見渡す。袁術は既に発言力を失っているし、場に袁紹の考えに反対出来る者など一人も無い。
 場に発言の無い事を形式的に確かめた後に袁紹は、
「なら、あの弓手が万が一にでも首を下げて還って来た時は、総攻撃を致すとしよう。但し負けていれば奮武将軍、貴様は一生俺の子分だ」
 と、意地悪く曹操を見る。曹操は気にもせずに腰を下ろした。袁紹は陳琳の書いた文章を確認し、
「では総攻撃の計画の前に、あの弓手の戦いぶりを見に行こうではないか」
 と提案する。すると、
「弓手とはそれがしの事かな」
 と声がした。
 張超が天幕の出入り口に目を向けると、そこに立っていたのは先程出て行ったばかりの関羽である。一同は唖然とし、袁紹はそれに気付いて大笑いをした。これに一番慌てたのは曹操だったであろう。夏侯惇も驚愕して、思わず立ち上がっていた。
「おい、弓手。恐れを為して逃げ帰ってきたか。大言を吐きながら、華雄は斬れなんだか」
 と、莫迦にした調子で袁紹が嗤う。すると関羽は
「逃げてはおらぬさ」
 と短く言い、
「ご所望のものはこれであろう」
 と、手に持った毛だらけの球体を袁紹に向けて投げた。
 それは孤を描いて袁紹の胸に向かってゆっくりと飛ぶ。液体を散らせながら飛ぶそれは、袁紹の両腕の中にすっぽりと入った。袁紹はその球体を訝しげに見る。と、
「ぎゃぁぁぁー」
 と情けない悲鳴を上げ、それを払い前に落とした。
 ごろりと転がったその黒い球体を良く見れば、人の首だ。確かに華雄の首級だった。
 華雄の首は切り口を下にし、瞼を半開きにして床に立つ。その切り口が鮮やかである事を表す様に、その首は一度立った後、一切揺らがなかった。
「その様に落とされては人相が変わる。華雄のものと、早速検分して戴きたい」
 と、憮然とした表情で関羽は言う。
 検分するまでも無かった。
 曹操の絶大な自信の根拠が今、やっとはっきりと張超にも理解できた。関羽という男は、桁違いに強い男だったのだ! 華雄の首を凝乎と見つめ、
「長く見積もっても、十合打ち合って居るまい。往復の時を加味すれば速過ぎる」
 と、鮑信が息荒く言った。張超も頷く。恐らくは一合も刃を交えては居らぬのでは無いかとさえ思う。
 諸将が余りの早業に驚き口を開けている中、関羽は悠々と進み、曹操の前に立つ。
 そして、
「宜しければ、約束の祝杯を所望したい」
 と静かに言った。声を無くしていた曹操もやっと気付き、
「お、於乎。祝杯であったな」
 と、震える声で言う。曹操も余りにも早い決着は予想外だったと見えて、関羽のその強さを巧く把握できていない様であった。
 鮑信が興奮を隠さずに張超に言う。
「我等は今、計らずも英雄の誕生に立ち会っているのかも知れんぞ」
 それで張超は鮑信に答えた。
「これからは恐らく良い時代にはなるまい。しかしだからこそ、実力ある者が用いられる機会も増えよう。あの関雲長という男の存在は未だ、その時代を象徴しているに過ぎないよ」
 張超が思うに、家柄のみを誇りにする人々は今後、必ずや淘汰される。これからは戦争の上手下手がものを言う、実力主義の世界が屹度開かれる筈だと思う。今まで低い身分の為に鬱々としていた人々も、その力を発揮できる時代が来るだろう。
「だから、良い時代にしようという一層の努力が必要なのだな。そして。では、強い郡を作る為にすべき事は、先ず何であろうかと、そう俺は時々考えるんだ」
 張超は爽やかに然う謂った。関羽と言う男の、尋常では無い強さに因る勝利が、今迄伏せっていた張超の気持ちに、新鮮な風を通したかの様であった。自然と、これから来る戦乱の時代への不安を、何故か希望の夜明けの様に思って了っている。
「それは、貧富に拘らず賢者を迎え、貴賎に囚われず勇者を招く事だな?」
「うむ。今後はそういう時代だろうな」
「あそこで盟主面している男の立場も、二十年後は判らんぞ」
 張超は「我々もな」という言葉を呑み、鮑信の言葉に微笑む。
 総攻撃後の物資の不足を考え、張超は広陵に残してきた袁綏へ出す書簡の用意をさせた。

--「わが諸夏侯曹伝」の中--



目次へ

記述者 strap : 2005年08月27日 00:21

オススメ三国志

三国志群雄伝 火鳳燎原 The Ravages of Time

三国志群雄伝火鳳燎原 三国志群雄伝火鳳燎原
三国志群雄伝火鳳燎原 2
三国志群雄伝火鳳燎原 3
三国志群雄伝火鳳燎原 4
三国志群雄伝火鳳燎原 5
三国志群雄伝火鳳燎原 6
三国志群雄伝火鳳燎原 7
三国志群雄伝火鳳燎原 8
三国志群雄伝火鳳燎原 9

いわずと知れた、三国志漫画の最高峰です。香港人の陳某氏が香港・台湾の雑誌で連載をしており、世界的な人気が有ります(これはその日本語翻訳版です)。
主人公は司馬懿と燎原火(趙雲)で、三国志物語を大胆なアレンジで描いているところが人気の少年漫画です。史実とは年齢が合わない等、大幅に改変された設定や追加されたキャラクターも沢山いますが、それが気にならない(というよりも、寧ろそこが良い)程面白い漫画だと思います。


三国志 全8巻セット (ちくま学芸文庫)

三国志 ちくまの全訳三国志の文庫版を、セットで売っています。
三国志」は、西晋の陳寿が記した歴史書で、三世紀(つまり三国志の時代に近い年代)に書かれた、正史のうちの一つです(正史は「二十四史」と言う様に、複数存在します。「後漢書」や「晋書」も正史の内の一つです)。この訳本では、裴松之という人によって付けられた注釈も、同時に収められています。
尚「正史」とは、「正しい歴史」という意味ではなく、「ある国家によって認められた歴史書」の事で、三国志は正史の中でも特に評価は高い部類に含まれます。紀伝体という記述方法で書かれており、三国志は本紀(皇帝の伝記と、その治世の記録の事)と列伝のみで書かれています。
主役とも言える曹操の事は、主に魏書の「武帝紀第一」という部分に書かれています。曹操の息子の曹丕が「文帝紀第二」、孫の曹叡が「明帝紀第三」、そしてそれに続く「三少帝紀第四」の四つの部分が、「本紀」の部分です。
三国志演義の主役である劉備は、蜀書の「先主伝第二」、諸葛亮は「諸葛亮伝第五」、関羽や張飛は「関張馬黄趙伝第六」という列伝部分に納められています。
「魏志倭人伝」と俗にいう文章は、魏書(魏志)の「烏丸鮮卑東夷伝第三十」という場所に収められています。
三国志演義三国志演義で面白いのですが、そのモチーフとなった史実を知る為には、先ず三国志を読むのが良いと思います。
読み易い文庫版で、入門用に最適ですよ。


その他の三国志

その他の三国志はこちらです。