« 英雄と名将の立つ風景 第二回 | メイン | 英雄と名将の立つ風景 第四回 »

カテゴリーへ
三国志小説作品目録
三国志小説論:エントリー一覧
ブログランキング・にほんブログ村へ

2005年08月22日

英雄と名将の立つ風景 第三回

「又情けない顔をして」
と、簡雍は叱ったが、関羽の気持ちは良く解る。
これまで転戦を重ね、苦しい戦いを何度も凌いできた。だのに、誰も劉備主従を認めてくれ様とはしないのだ。簡雍が見るところ、関羽はその義弟張飛と並び、比類を見ない程の豪傑である。にも拘らず、誰も認めてくれ無いというのでは、腐る気持ちも良く解る。袁術配下の兪渉等や、袁紹配下の顔良、文醜が、名門に仕えるというだけの理由で持て囃され、関羽の様に真に優れたものは誰も顧みるものがいない。その不公平は簡雍にも残念な事だった。
冀州牧韓馥の配下、潘鳳が華雄に斬られたとの報が届いた時、簡雍の主である劉備は悔しそうな顔をして、関羽と張飛に頭を下げた。
「自分に力さえあれば、お前達に行かせてやれるのに」
と。
涙を流す劉備を見て、関羽と張飛の方が逆に恐縮してしまう。しかしそれと、「自分達が行けば華雄など簡単に斬れるのに」という思いは別である。事実、関羽の見たところ華雄は確かに強いが、適わぬという程の相手では決して無いとそう言う。ならば。
ならば、連合軍の為にも関羽が華雄を斬るべきだと、簡雍は思った。この男達の薄幸を嘆じるよりも、先ずは目の前の男の類稀な才を活かさせるが先と、そう強く己の仕事を意識する。
真面目に過ぎる関羽では思いもしない非常識を、簡雍は述べた。
「と言っても、この儘うつうつとしていても始まりません。明日も華雄は必ずや一騎打ちを望むでしょう。少々不躾ですが、この時自ら名乗りを上げなさい」
簡雍の言葉に関羽は驚き見る。
「驚く事は無いでしょう。諸将がこちらを知らぬならば、こちらが自ら立ち、自分の存在を主張すべきです。こういう時は当たり前の事をしていてもいけません。常識を棄てて事に臨むべきなのですよ」
それにはやはり、関羽は反論をした。
「しかしそれで巧くはいかぬぞ。連中はこの有事を前に、未だ官位や家柄で人を判断する」
「そうでしょうな」
「そうでしょうな、ではいかぬではないか。策があるから言ったのだろうに!」
関羽が怒気を孕ませ始める。この人は頭が固く、常識的だという事が一番の欠点だと思いながら、簡雍は鹿爪らしくこう言った。
「無論、策が無ければこの様な事は申しません」
「それは如何なる策であろうか?」
関羽は訊ねる。
「何、簡単な事です。予め有力者に実力を見せ、根回しをしておけば、名乗った時に推してくれます」
「しかしそんな銭が何処にある?」
関羽は訝しげに聞く。
「金はありません。だから実力を見せるのです。この戦いに熱心に取り組んでいる者ならば、是非にあの華雄を排除したいでしょうし、我々と利害関係が成立します」
こう言うと、関羽は納得した様に頷いた。そして暫く考えた後
「では袁術に?」
と問う。
「いいえ。袁術に口添えさせる事は、多くの理由で駄目でしょう」
「その理由とは?」
「袁術は熱心に取り組んではいますが、それは本心ではありません。飽くまでも己の実力を示したいから戦っているのであって、彼には手柄を立てるのが誰でも良いという訳ではないのです。又、門閥意識の殊更強い男。我々が無位無官である時点で話を聞く様な男では無いでしょう。それに彼には我々の実力を測る物差しはありませんし、第一既に発言に重きを置かれてはいません」
簡雍の応えに、関羽は戸惑った様だった。
「では誰に売り込むというのだ」
それに簡雍は笑いながら問いで返す。
「今、連合軍の主力は何処とお考えかな?」
関羽は即座に
「少なくとも袁紹では無いな。無論袁術でも無い」
と返した。
簡雍はじっと頷く。
「冀州刺史韓馥、予州刺史孔伷、兗州刺史劉岱、河内郡太守王匡、東郡太守喬瑁、山陽太守袁遺、北海太守孔融、徐州刺史陶謙、西涼太守馬騰、上党太守張楊。どなたも熱心では無い。ならば、陳留太守、広陵太守の張兄弟。それに済北相の鮑信。この三名の率いる兵こそが中核ではなかろうか。この三軍は士気も錬度も申し分無い」
流石であると、簡雍は感心をする。しかし良く考えてみれば、関羽は軍事に直接携わっているのだから、簡雍よりも良く見えて当たり前なのだと思いなおした。そういう事を一瞬で考えた後に、
「如何にもそうです」
と頷く。そして関羽の顔をじっと見つめて微笑んだ。
「ではこの三名の何れかに?」
関羽はしかし訝しげに聞く。それで簡雍も
「いえ、違います」
ときっぱり否定する。その後
「では?」
と問われたので、もう少し話すべきかな、と思い、続きを述べた。
「この三軍は確かに例外的に精強です。しかし三将には戦略的判断も、作戦的見地からの思考も何も無い。将兵は精悍でも広い視野の用兵が無い。そこには、黒幕と共有する政治的思想があるだけなのです」
「黒幕か」
「はい、黒幕」
「黒幕。それは‥‥‥三名を束ねるとお前が言うそれは、奮武将軍曹操の事だな?」
関羽の問いに簡雍は頷き答える。
「ご明察です」
「確かに奮武将軍が中核である三名の中心であるといえるし、それに連合軍の中枢であるとも言える。袁紹にも強く出る事が出来る人物だし、今の有り様を本気で嘆いている男だ。しかし」
「しかし?」
「しかし、奮武将軍自身は連合軍の中枢であるが故に多忙だ。それにどう、それがしの実力を見せ付ける? その様な隙はあるまい!」
こう言われてつい、簡雍は笑ってしまった。解っている様で、関羽は肝心のところを解ってい無いのだと可笑しくなってしまう。
「何を笑われるか!」
そう関羽が怒気を発するので、珍しく顔を引き締め真面目な顔を作り、簡雍は静かに言った。
「曹操自身に売り込む必要はありますまい。曹操が片腕と頼りにしている大鷲がありましょう。あの男なら、こちらの実力を理解出来る技量も持ち合わせて居ります故に」

目次へ

投稿者 strap : 2005年08月22日 02:45

ホームページ制作・ビジネスブログ(商用ブログ)構築|福岡・大牟田