« 英雄と名将の立つ風景 第一回 | メイン | 英雄と名将の立つ風景 第三回 »

カテゴリーへ
三国志小説作品目録
三国志小説論:エントリー一覧
ブログランキング・にほんブログ村へ

2005年08月21日

英雄と名将の立つ風景 第二回

連合軍の調整役を担う陳琳は溜め息を吐いた。
袁術の養う青綬が、僅か四千の兵の夜襲を受け、無残に潰走したというのだ。そこには一万の兵が集結していたし、袁術の口振りでは大そうな用兵家であったから、袁紹を始め、諸将は皆この別軍に大いに期待していた。故に、これを皆に伝えるのは気が重い。特に又袁術の面子を潰す事になるかと思うと、陳琳は胃が締め付けられる様に痛んだ。先日、既に袁術は一つ恥を掻いている。
袁術はこの対董卓連合軍中、現在最も戦力を提供している男だ。名門の出であるという誇りから自尊心が非常に強く、その自尊心が今の立場に不満を抱かせている。陳琳が考えるに、盟主と成れなかったその屈辱が、彼を必死にさせている訳だが、しかし諸軍にとってそれは有難い事ではある。袁術は、配下の驍将兪渉を投入し、敵の華雄を斬り、己の武名を高めようと目論んでいた。
汜水の関を守る部将、魔人の如き華雄に関しては、正確な情報が伝わっていない。元々董卓の将兵は謎に包まれていたし、今は勝手な任官がなされているから、敵将の官位など解り様も無いのだ。こういった敵は、「不可視の手」の様なもので、実に心許無いと思う。年齢、字が解らぬどころか、「都督の華雄」であるとか、「都尉の葉雄」であるとかと、情報が錯綜しており、連合軍の諜報能力の低さを露呈させている。判っているのは、身の丈九尺の関西人であるという事と、胸の古い矢傷の為、呼吸障害があるという事のみであった。その容貌は、虎の体に狼の腰、豹頭にして猿の臂と評されている。済北国の相鮑信には、鮑韜、鮑忠という二人の弟があったが、この内武勇に秀でた鮑忠も、兪渉より先にこの華雄に一騎打ちを挑み、そして敗れていた。
袁術配下兪渉は、武人としての誉れ高く、その武勇は天下第一とされていた。この男が華雄に一騎打ちを挑むという事が決定した時、陣内ではもう皆華雄の首を取った気になって前祝まで行なった。しかし、にもかかわらず、その男が三合持たず、あっさりと落馬した。この時の諸将、特に袁術の慌てぶりといったら、とても見ていられるものではなかった。華雄は予想を大きく上回って強く、兪渉は噂に違い弱かった。
これで袁術の立場は急激に弱くなった。兪渉の天下第一は虚名であったと、衆に知られた形となったからだ。そして人々は、矢張り最も強いのは、袁紹配下の顔良と文醜であると噂をする事になった。だから今回袁術は、孫堅に非常な期待をしていたのである。それが敗れた事を発表するのは何度考えても気が重い。自分の能力の限界を超えている様な気がした。
「今将軍には皇威が有り、全ての兵権を掌握されています。正に虎が闊歩する様な勢いがあり、軍は編成の大小を問わず将軍の意の儘であります。しかし今、外から人を招き、足元に大軍を呼び寄せれば、必ず収集が付かず、ただ動乱のきっかけを作るのみです」
陳琳がそう忠告したにも拘らず、何進は袁紹等の奨めに従い董卓を招聘した。であるから陳琳には、今の大乱は袁紹にもその一因があると思えて仕方が無い。にも拘らず、今この連合の盟主は袁紹であり、己はその袁紹の主簿に納まっている。皮肉なものだと自嘲した。
その様な男が盟主であったから、当然の事ながら連合軍の纏まりは薄い。圧倒的多数であるにも拘らず、その数の優位を活かせずに負け続けている。一方敵を見てみると実に手強い。董卓子飼いの四大冦、弟の董旻、従弟の董承、娘婿の牛信、郎中令の李儒を始め、白袍の李粛、玄菟の徐栄、八健将を率いる呂布と、その人材の豊富さには驚かされる。しかもそれらが董卓の指揮の下に、一致団結して乱れぬ軍事行動をしているのだ。こちらは三方から囲むが、今袁術配下の孫堅が陽人で敗れ、虎牢、汜水の両関は天険の要塞であり、攻めあぐねている。数は揃えたとて、名を連ねる事のみを目的とした士気の低い連合軍には、到底勝ち目は無いと、そう軍事の専門家では無い陳琳にも思える。
敵は少ないといっても、実戦経験豊富な精兵であるし、こちらは士気が低い上に疲労している。だから敵が一騎打ちを望んでくるのは、連合軍側としても歓迎だった。しかし敵が強過ぎて、誰も対抗できない。肝心の猛者がいないのである。ここで誰かが一騎打ちで華雄を討てば、流れは大きく変わるかもしれぬのにと、陳琳は思う。こう考えると、陳琳の思考は空想に迄及ぶ。誰を当てれば、華雄に勝つ事が出来るであろうか?
顔良と文醜の二人は、袁紹の空名がその名を吊り上げているだけで、凡将である事を陳琳は知っている。世間が言う様な評判とは異なり、頼りになる男達では全く無い。実の伴なわぬ名だけの将だ。では一体誰が良いというのだろう。
そう考え先ず第一に思い当たったのは、冀州牧韓馥の配下、潘鳳であろうか。潘鳳であれば、或いは勝てるかも知れぬと思う。その振るう大斧は、見る者を圧倒し、そしてその大斧で絶てぬ物は何も無い。この男を出せば、必ず勝てると、陳琳は確信した。他に探すならば、奮武将軍曹操の司馬、夏侯惇と、徐州刺史陶謙配下の歩隊将曹豹位であろう。この三人以外には見当たらないと思う。恐らく他の者が考えても、顔良と文醜を除けばこうなるだろう。
どちらにせよ、敵が挑んでくる以上、華雄は一騎打ちで斬らなければならない。勝てば沈滞した士気が上がるやも知れぬし、敵の士気を挫く事が出来るだろう。各地で負け続けなのだから、この辺りで一度勝たねば士気はそろそろ崩壊しかねぬと、戦に馴染みの無い陳琳ですらも考えた。

目次へ

投稿者 strap : 2005年08月21日 02:58

ホームページ制作・ビジネスブログ(商用ブログ)構築|福岡・大牟田