2005年12月16日
三国志掌編小説「謀臣の資質」第一回
もう女に騙されるつもりは無かった。のに。
騙されたのが俺で無いのだから致し方無い。騙されたのは、吾等を囲む歩卒を率いる将、呂布。経験の浅さから、美女には頗る弱い男だ。あの日迄の俺と同じか。
呂布には充分に注意を促したつもりだったが、言葉が足りなんだか。
ざ。ざ。ざ。ざ。ざ。
呂布を手玉に取った悪女を怨む時、俺を裏切った妻の事が思い出される。
俺の自慢だった、美しい妻。俺には優しく思えた妻。
ざざざ。
今思えば、妻が特別ふしだらだった訳では無いだろう。
それでも俺は許せなかった。そして俺は人を斬り、出奔した。
ざざ。ざざざ。
捨てた息子は、今何歳になるだろう。
ざざざざざ。ざざ。
妻を独り占めしていた訳で無い事を知ってから先俺は、毎夜魘されている。
安眠した覚えは無い。
ざざざ。ざざざ。
昔の事はもう、霞んで思い出される。俺は退屈な日々をおくる、只の善良で貧しい、一人の男でしか無かった。
幸せと思っていたか否かは、判からない。恐らくそう勘違いしていたのであろう。妻の愛を信じていた。妻の愛を疑う事は無かった。妻を想う度、今でも心は嗚咽を上げる。
俺の不甲斐無さで、妻は着飾る事が出来なかったが、しかしそれでも美しい女だった。当時の俺の唯一の自慢が、その美しい妻だったのだ。俺は宮廷にいて、沢山の女達を視る機会を得たが、俺の妻だった女と較べる事の出来る女はいなかった。俺の妻程美しい女はいないと、今でもそう確信する。世界中の女の中で、俺の妻が最も美しい。
建寧年間の頃、俺は碁の勝敗が原因で同郷の者と口論になった。
俺は身分も低い士官の次男坊で、当然当時の俺も身分低い、半農の士官の一人だった。俺達の楽しみといえば碁を打つ事しか無く、算数の得意な俺は直ぐにこれに上達して了った。俺が口論になった男は、囲碁の上手を自慢にしている男だったのである。
俺も加減を加えて相手をしたが、しかし狭い範囲での達者な男。真に能れた俺の相手では無かった。俺は経書を黙読しながら相手をしたが、五局打てば五勝し、七番打っても七勝したのである。浜には毎度、溢れる程に石が載った。それ程に実力が違い過ぎたのである。俺が相手の余りの弱さに、「もっと腕を磨いてから名人を名乗りたまえ」と謂って了ったが為、男はその誇りを酷く傷つけられたらしかった。それで男は漏らしてはならぬ秘密を、怒った声で俺に語ったのだ。
「お前は知らぬが儂は、お前と結ばれる前のお前の妻と‥‥‥」
ざっざ。ざっざ。ざざざざ、ざざざ。
ここは暫く記憶が定かでは無い。厭、意識が無かった。
たらり。
気が付いたのは、刃から粘っこい液体が拳に生暖かく纏わり付いてきてからだ。
男は頸部を、右下から跳ね上げられ、切り落とされていた。
俺は右膝を立て、左手を鞘に添えている。
ぬるり。
俺が斬ったのは明らかだった。
どろり。
記憶は無い。が、しかし。何故斬ったのかははっきりと解かる。俺には簡単なことであり、当たり前の理屈だった。
俺の知らない、俺に隠された秘密を持つ妻を、俺はどうしても許せなかった。俺だけを愛した訳では無い妻を、非常に腹立たしく思った。そして、妻が俺だけのものでは無い事を知って、悲しさが溢れた。それで俺は咄嗟に目の前の、俺の知らない妻を知る、妻が情を交わした事のある男を斬ったのである。
男に怨みは無かったし、今でも無い。
これは俺と、俺の中での妻の問題だった。
俺は、妻の俺への愛が贋だと知り、無意識に目の前の男を斬ったのだ!
ぼたり。
事態に気付いた俺は一度、「ヲォーっ」っ、と獣の咆哮に似た叫びを上げると、剣を振り回して男の家を出た。無我夢中であった筈なのに、何故か夕月の暗さと秋風の冷たさを覚えている。それは俺の記憶では無く、後の印象だったのかも知れない。何にせよ、どちらでも好い事である。
俺は本当に妻を愛していた。妻を信じていた。いとおしく思い、妻を自分だけのものだと思っていた。
夜毎、妻を愛撫する事に喜びを得ていた。唇を吸う事が堪らない快感だった。玉門を弄った時に見せるあの恥ずかしそうな表情が、俺は堪らなく好きだった。愛していたからこそ、尻の穴を嘗める事すら厭わなかったのだ。
俺には妻が望む快楽を与える事が、大きな愉しみだった。妻の愉悦の表情が大好きだった。
ざ。ざ。ざ。
俺はこうして出奔した。以来妻は勿論、同郷の者とは誰とも会ってはいない。
ざざざ。
それ以来俺は勃た無くなった。
ざ。ざ。ざ。ざざ。
俺が只、唯、愛を灌いだのに、過去に俺以外の男と妻は情を交わしていた。俺への献身は、唯一の相手への愛などでは無かったのだ。俺は芯から妻を信じていた。決して裏切られる事など無いと信じていた。しかし妻は出逢った頃既に、もう俺を裏切っていたのだ!
確かに、俺と添い遂げてからの妻は俺一人に尽くしたかも知れない。しかしそんな事は最早、俺にはどうでも良かった。俺が潔癖に過ぎるのだろうか。しかし俺は、愛する妻が俺に秘密を持っていたという事が、どうしても許せなかった。俺が妻一人を女と思っていたのに対し、妻にとっての俺は、多くの男達の内の一人に過ぎなかったのだ。俺は悲しさの余り、今でも壁に向かい声を上げる。
良妻は幸せを呉ると云う。悪妻は人を哲学者にすると云う。
ならば俺の知らない過去を持っていた妻は、俺に何を呉たのであろうか。俺が最も、否、唯一愛したあの女性は、俺に何を与えて呉たのだろう。
ざ。ざ。ざ。ざ。ざ。ざ。ざ。ざ。
俺が妻に貰ったのは、「謀臣の資質」である。
人を信じず、人の心を注意深く盗み取り、嘘を見抜こうとする心構え。人を愛さず、冷徹な判断が下せる非情の精神。
この資質を得たからこそ俺は、郎中令という地位に立つ事が出来たのである。
では、俺を謀っていた妻には感謝すべきだろうか?
ざ、ざ、ざ、ざ。
吾が名は李儒。相国を名乗る董卓に、智慧を授けていた男である。
今、女の策の為に身を滅ぼす、智謀の臣。
女の謀略に引導を渡される情け無い策士。
それが俺である。
呂布の部下が今、屋敷に火を放った。
2005年12月17日
三国志掌編小説「謀臣の資質」第二回
ざざ。ざざざ。
裏手を指揮するのは、成廉か、魏越か。
どちらにせよ流石に手際が良い。ぱちり、ぱちりと音が鳴る。
ざざ。ざざざざざ。
俺はそもそも、一兵として生きるつもりだった様に思う。建寧四年の俺は、工兵の一雑卒に過ぎなかった。
西部戦線で入営した俺は、伍列の仲間とも打ち解ける事をしなかった。それで次第に敬遠され、最も過酷な工兵隊に回されたのである。工兵は前線にありながら戦闘兵科としての役割が無く、危険に身を晒して重い荷を運ばねばならない。体力には自信のあった俺も、流石にこれには閉口した。
川を渡る為の架設が必要になった際俺は、必要な資材を一瞬で計算し、上官にひっそりと教えた。又ある時は複雑な構造計算を基に、必要な土嚢の数を計算し、作業を大幅に軽減させた。こうして上官は俺の計算の為、工兵科や主計科の噂から算術の神と謳われ、慕われる様に成る。そうして以後、上官は俺に頼らざるを得なくなった。付け届けもあり、この事で俺は俄かに重宝される事となる。こうして俺は入営の半年後には下士官となり、重労働からは解放されていた。そして、その半年後にはもう士官へと昇進する。
以後俺は上官達への贈賄を怠らず、工兵科の士官として十余年を過ごした。
ぱちり。
女の居ない世界が俺には清潔に思われた。
ざざ。ざざざ。
そして、俺に新たな転機が訪れたのは中平二年の晩秋であった。
ぱちり。
ぱちり。
辺章、韓遂の叛乱に対し朝廷は、十万の兵を西部戦線に増援した。この時俺は工兵科の長として、破虜将軍董卓の軍に編入される事となる。本営と独立して動く董卓の別軍三万は連戦に快勝し、奔る賊を深く追った。そして遂には先零羌の本拠地である望垣に迄達する。
しかしここ迄であった。補給の続かぬ別軍は、物資、特に食料の不足の為に窮地に立たされたのだ。一時撤退を余儀無くされる。それで俺は、工兵科の責任者として提案をした。
「将軍。糧食無くしては、前進も後退もありはしませぬ。後退の際、川で魚を得ましょう」
流石に窮地であった。董卓は俺の言う事に素直に耳を傾ける。
「我が工兵科が先行し、川を塞き止めれば、川魚を得る事が出来ます。流れを止めれば渡川も容易なれば、一石にて二羽を落とすが如しであります」
董卓にすれば、考えるまでも無かった。
「良かろう。許可する。李校尉、川の流れを留めよ」
頭を悩ませていた食糧問題の解決に安心した為、董卓は大仰にこう言うが、俺は意地悪にもそれに、不安を掻き立てる様な弱々しい芝居で応えた。
「しかし一つ気がかりが」
「何だ。申せ」
董卓が苛立たし気に言う。ここからが、俺の人生を変えた長科白だった。
俺は鹿爪らしい表情を作ると、説明を始める。
「小官はこの辺りの地形には詳しい。先日、ある程度の測量には立ち会っておるのであります。さて、この前提を知って戴いた上で、その経験から論理的にお話致しましょう。残りの物資から作る事の出来る堰の大きさを計算しますに、川幅は酷く狭くなければなりません。糧食飼料のみならず、物資は悉く足りぬのです。そこで計算したのですが、川幅の他、流量、流速、川の深さ及び、我が軍の行軍能力、進行速度を加味して考えまするに、堰を作れる場所は唯の一箇所しかありません。まさかと驚かれるかも知れぬが、一箇所ある事こそが大変な幸運なのです」
「だからなんだ。そこに作れば良いではないか」
「その場所が問題なのです。此処では食料の問題は解決致しません。堰を切る事、広範囲に広がらない事を考えますと、採れる川魚は精々が二日分。全軍は一時的にすら持ちませぬ」
董卓は唸り俺に応えた。
「されどこれ以外に飯を得る手は無い。各々半人前づつ喰う事とすれば良かろう」
これを聞き、俺は厭らしく笑った。董卓は俺の網にかかったのだ。
「莫迦な。それで士気を維持できますかな? 小官の計算では、兵が一万少なければ、何とか補給が間に合います。ここは自軍の兵を減らすべきです!」
俺の言葉を待ち、場が森と静まる。
「士気を失った三万と、旺盛な二万。どちらが強靭だというのです? 三万に喰わせ、全軍を壊走させますか?」
「控えよ、貴様!」
遂に、咄嗟に上ずった声で都督が吼えたが、俺はそれに即座に言い返した。
「軍の窮地に知持つ者が策を献じるは当然の事! 牀几に腰を下ろすだけのそこもとに怒号を受けるいわれは莫い!」
「ではどうする。策があるのか」
董卓は怒った調子で俺に聞く。しかし目は不安を湛え、俺に向けられていた。この時最早、立場は俺の方が有利に成っている。
俺は効果を期待し、表情を作らず淡々と述べた。
「殿軍一万を囮に、敵を川床に誘い込んで戦闘。その戦闘の最中に堰を決壊させます。こうする事に因って、食糧問題、後退路の確保、敵への打撃と追撃への障害。四つの解決を導く事が出来るのです。当に起死回生の策と申す事が出来るでしょう。一万の兵を捨て、利を得るべきです」
董卓が続きを目で促す。
「南岸にて殿軍を待機させ、北岸を下る敵に対峙させます。この時陣形は、長く横陣を敷く形とし、何時でも隙あらば包囲に転じれる形としておきます。こうして一万に川床の賊を襲い掛からせましょう。そして程好く乱れたところで小官が烽火を上げ、決壊の合図を出す。こうする事で、敵と余分な味方、つまり不要な者を水に流せまする。この様な戦術を見せれば、以後も群盗は我等を恐れて無理に逐う事はせぬでしょう」
ここ迄聴くと董卓は破顔し、大笑した。そして鮫の様な声で俺に告げる。
「李儒よ。以後我が軍の籌略に参与し、我を援けよ」
こうして俺は董卓の私的な謀臣となった。
こうして今の地位の足掛かりを得た訳である。堰を切る時機を烽火で指示するのが、工兵科での俺の最後の仕事となった。
ぱちり。ぱちり。
この時利に聡い校尉達が部下を提供し、殿軍を担わせた為、彼等は将軍に昇進を果たした。将軍達は昇進の為董卓の側に在り、それ迄彼等を補佐してきた者達が皆犠牲に成り死んだのである。将軍達は非情にもそれまでの手足を濁流に呑み込ませ、新たな地位を手に入れた。死んだ者達は皆彼等の昇進を喜び、それに伴なう自身等の昇格に活力を得て、最後尾で勇敢に全軍を護ったのである。間抜けな話だ。
ざ、ざ。
この計画は董卓の軍で最も程度の高い特別の秘匿に指定され、以後も洩れる事は無かった。
ざざ。ざざ。
しかし俺はこの時、何故にこんな怖ろしい事をさらりと言えたのだろう。俺は何故、躊躇い無く堰を切らせ、濁流に翻弄される味方を平然と眺めている事が出来たのだろう。奮い立ち不利な地形で懸命に戦う人々を何故、ああも無残に殺す事が出来たのだろう。
ざざざ。
今、乱暴にかき混ぜた時の妻の荒い息遣いが思い起こされた。
乳首を転がすと髪を振り乱して愛らしい声を上げ、尻を突くとすすり泣き、淫靡な仕草で俺を喜ばせた。卑猥な言葉を無理に言わせると、赤面して体を捩り、熱く股を濡らした。四つん這いにされた妻は眉を寄せ、悩ましくも艶かしい表情で、「もっと苛めて下さいませ」と俺にせがむ。それで俺は激しく弄りながら、強く突き上げる。すると何時も妻は恍惚の表情を浮かべるのだった。
妻は貪欲に、快楽を貪る女だった。恥ずかしい格好を好んでし、乱暴にされると殊更嬉しそうな表情を見せ涎を垂らした。尻を叩かれるだけで、酸味の効いた汁や尿を漏らして喜んだ。
ざ、ざ。ざ、ざ。
俺の残酷な発言の根幹は、非情な観察の要因は、妻の嗜虐趣味が一因か。俺の麻痺は、妻の嗜好が遠因なのか!
ならばやはり妻には感謝せねばなるまい。合理的な計算で人命を左右できたのは、妻に可虐を求められたからだ。「謀臣の資質」はここでもゆったりと育まれていたのだ。
俺は妻の快感に敏なつもりだったのに、次第に人の苦痛に鈍感になっていったのだ!
ぱちり、ぱちり。
妻をもう一度愛したかった。
ざ、ざ。ざ。ざ。ざ。
妻の乳房をもう一度含みたかった。
ざ。ざ。ざ。ざ。
精神に雑音が入る。死期近き人の思考とは、こんなに煩いものなのか。
ざざざ。ざざざ。
精神に雑音が走る。死を待つ人の思考とは、こんなに煩いものなのか。
ざざ。ざざざざざ。
嗚呼。
嗚呼!
ざざざざざざざざ。
2005年12月27日
三国志掌編小説「謀臣の資質」第三回・最終回
妻は敏感な女だった。
猥らな女だった。硬いものが好きだった。
夜は常に俺に強請った。俺のものを求めた。
荒縄できつく縛ると、殊更悦び身悶えた。
疲れて休んでいると、尻を突き上げ「焦らさないで」と潤んだ瞳で俺に強く懇願した。
激しく掻き混ぜると、苦悶の表情を浮かべながらだらりだらりと、嫌らしく股を濡らした。
絶頂に達すると、度々小水を漏らした。
付け根まで入れた中指を肛門からゆっくりと抜かれると、快楽の為に眉を寄せ、大きな声を上げた。
しかし。とは言え。
妻は俺とは違い、俺を愛していたのでは無く、屹度俺との行為を愛していたのだろう。裏切られていたと知った今はそう思う。
俺の愛は、妻には全く届いていなかった。俺がどんなに愛していても、妻は俺を裏切っていた。何故、俺の気持ちが伝わらなかったのかと、時折気が狂いそうになる。
俺が女を怨む様になった理由は、妻が女であるからに他ならない。
俺が人命を軽視するようになった訳は、妻が人であるからに他ならない。
俺が愛される人を見る度に殺してきた要因は、妻が俺を愛さなかったからに他ならない。
俺は嘗て、妻を誰よりも愛した。だが何時しか、妻を誰よりも憎んでいた。
俺の独占欲を満たさせては呉れ無かった妻を、俺は酷く恨んだ。
俺は己の人生に悲観し、その為に何時しか人を嫌う様になっていた。俺だけが不幸な事が許せなかった。
ざざざ。
人に感心が無いという事は、冷徹にはなれる。しかしそれでは、秀れた謀略家とは成り得ない。秀でた謀略家は人の心の動きが解らなければならないからだ。能れた謀略家に成る為の資質は、人を怨み、人の痛みに鈍感である事を要求する。人に感心を持つ事を要求する。
俺が妻に与えられたのは、矢張り「謀臣の資質」であった。
ざざざざざざざ。
賈詡という校尉は、抜け目の無い目をした男だ。俺と同じ、「謀臣の資質」を有する男の臭いがする。狡猾で冷酷な男の臭い。妻子は同郷の者に預け、矢張り別居しているという。女を嫌っている男の顔だ。謀略に腕を発揮させる為の知識も、人心操作の技術も、高い水準で備えている。そして、俺の司馬時代の過去を知っている。
剣を持ちて舞った時、
「流石の冴。妾で敵を油断させる為、抜き打ちで上官の首を落とした話は聞いて居ります」
と発言したのだ。
そう、俺の躍進は、上官である校尉の首を落とした事に端を発する。上官の女を抱かせ、敵の油断を誘った事に起因する。
ざざざ、ざざ。
工兵隊が独立して行動している時、群盗の一軍と遭遇して了った。数が違い過ぎるし、まともに当たっても勝ち目は無い。当時司馬であった俺は、校尉に降伏する事を進言する。しかし校尉は己の私的な理由から交戦を決定した。戦地まで連れて来た愛妾を、群盗に渡したくは無いと言うのだ。それで俺は素早く鯉口を切ると、校尉の首を叩き落した。
校尉を殺し実権を握った俺は先ず、女を掻き集めた。軍中には小銭を集める事を目的とした娼婦や、夫と離れられずにそっと付いて来る妻達が少なからず隠れているのだ。それを知っていた俺は、そういう女達を見つけ出し、群盗に引き渡す事を考えた。俺はこういう女達が嫌いだったので、何時か陣から切り落とそうと考えていたのだ。実に好い機会だった。
自分の命が係っていた為、兵卒達は女達を庇う事無く差し出した。妻を奪われた男は泣いて取らないで欲しいと懇願したが、全員の命に係わる事であるので、兵達には無視された様である。余りにしつこい男は、俺が命じて兵に斬らせた。こうして俺は、校尉の愛妾を含む、四十人ばかりの女を捕らえたのである。
俺は四十人程の女と、ありったけの酒、ありったけの銭、それに、校尉の首を差し出し、群盗に降伏を申し入れた。群盗は一度も干戈を交えずして欲しいものが全て手に入った訳であるから、気を好くして俺の提案を受け入れて呉れた。それで俺達は剣や鶴膝を渡せば、翌日解放される事となった。
ぱちり、ぱちり。
その夜、群盗達は歓会をした。武装解除した我々に安心し、酒を呑み、飯を喰らい、女を抱いていた。全く油断しきっていた。我等を見張る者など、数人しか居なかった。
我らは武装解除させられたとはいえ、円匙もあれば鶴嘴もあり、標尺もあれば砂袋もある。武器以外で奪われたのは手斧や鉞位のものであった。抵抗せず、あっさりと降伏した事が奴等に安心感を抱かせたのだ。
こうして我々は倍する数の群盗を破り、物資の奪還に成功した。校尉は名誉の戦死という事にし、司馬の俺はそのまま戦地の人事で大きく出世した。この様な人事が罷り通る事こそが、この時代の良さである。家柄よりも実力が評価される時代こそ、俺が活躍する下地であった。
ざざざざざ。
しかしこの秘密を知るとは、賈詡という男の諜報能力、侮れぬものがある。多くの人々は高が校尉と侮るが、何時かは大きな男と成るやも知れん。今は家柄よりも実力が評価される時代なのだ。後世畏るべし。
ぱちり、ぱちり、ぱちり。
ぱちり、ぱちり、ぱちり。
火の回りが速くなって来た。もうじき俺は焼け死ぬだろう。
俺は屹度焼死するだろう。
今から焦げ、苦しみ、死ぬのだ。
ぱちり。
俺の人生を振り返ってみる。充実していただろうか?
力など全く無く、その日をやっと暮らしていたこの俺が、大きな権力を持つ事ができた。俺の献じた策は大軍を動かし、敵味方、多くの将兵の生命を失わせた。弘農王に酖を呑ませ、政治を大きく動かしもした。
しかし、だから何だと謂うのだ?
かつて妻と過ごしていた半農の生活よりも充実していたと謂えるだろうか? 妻のいた生活と較べ、愉しかったと謂えるだろうか?
俺の思考は結局、ここに落ち着く。
妻は何故、俺を愛しては呉なかったのだ! 俺の何が、愛するに値しなかったというのだ。疚しい事無く真面目に生きてきたというのに。
俺は「謀臣の資質」など、本当は要らなかったのだ。妻と一緒ならば、半農の生活でも好かった。妙な志などは、鼻から持ちはしなかったのだ! 愛が得られないのなら、ずっと騙していてほしかった。騙されていたかった!
俺が欲しかったのは妻の愛。不本意に得たのは、「謀臣の資質」。
しかし今、それも失われつつある。もうじき灰になろう。
ざざ。
俺は思う。
俺の人生のなんと詰まら無かった事か。何と空虚な事であろう。
おお、人々よ。妻の愛を受けられなかった俺を哂え。空しく時を過ごした俺を嗤え。
人は羨んだかも知れぬが、俺は俺の人生に満足などしていない。換われるものならば、何処の誰の人生とだって交換したって良い。
ざざざ。ざざ。ざざざざざ。
今思えば失踪したあの日、俺の人生は終わっていたのだと思う。だらだらと生きてきたものだ。
ぱちり。
火が回って来た。もう終わるのか。抜け殻の人生が、もう終わるのか。悲しみが込み上げて来る。
もう妻に逢えないかと思うと、寂しい気がした。生きてさえいれば、何時か遇えるやも知れぬと、心の底では期待していたのに。
ざざ、ざざざ。
遂に最期の時が迫っていた。
ぱちり、ぱちり。
俺は最後に思った。
俺の下らない人生に終止符を打つのが、まさか一人の女であったとは、と。俺に不要な物を押し付けるのは、常に女なのだな、と。
俺の一生は、女達に崩されたのだ。
ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。ざざ、ざざ。
この世には悔いばかりが残る。未練も多い。果たすべき事も多くある。しかし、生きていてもそれらが達成される事は無いだろう。達成される事は一つも無いのだ。
悲しい事であるが事実である。事実である。
それが、「謀臣の資質」を受け取った、という事であるのだから。
了
2006年04月29日
「謀臣の資質」特別編 「謀将の資格」
この人を曹操に抱かせねばならぬのか。
そう考えた時、一層愛しくなって、硬くなった右の乳首を強く吸った。陰核にそっと当てた右の中指を、激しく動かす。背中から廻した左の五指で乳房を揉みしだく。それは俺の狂おしさを体現するかの様であった。感度の良い女は、指に合わせて声を上げる。
ずっと憧れ続けてきた女性。胡弓を弾く、族父の美しい妻。恋焦がれた清楚な印象の女性。鄒氏。初めて触れるこの女性に俺は、長年密かに思いを寄せていた。そして今、遂に手を出した訳である。それは後悔せぬ為であり、又、償いの為でもあった。
美しい鄒氏は、
「あっ、あっ、あっ」
っと顎を上に向けて反り、激しく声を上げる。既に充血した陰核を拇指と中指で摘まんで擦り合わせると、目を閉じた首を振りながら、
「あぁーん、あぁーん」
と可愛らしく鳴いた。そのはしたなく涎を垂らす愉悦の表情を見て、俺は一層悲しくなる。
俺には、一時の快楽を与える事しか出来ぬのだ。何と情けの無い事であろう。己の無力を怨む。己に力さえ有れば、この美しい人を曹操に渡さずとも済むというのに。
屈辱感と遣る瀬無さが同時に込み上げてくる。しかしそれを決めたのは、誰でも無い己自身なのである。 熾る憤りは、誰に対してか。
俺は乳房から離した口を、腋の下に持って行き、その滑らかな曲線を追う様に舌を這わせた。すると族父の妻は体を曲ねらせようとする。俺は無理に押さえつけてそれを禁じた。禁じられると益々快楽が体内で増幅していくらしく、族父の妻はある種の苦しそうな顔でそれに必死に耐える。その様子が実に愛らしい。全身が性感帯の様な女であった。
族父、張済が死んでもう随分と経つ。恐らく鄒氏は、性的な欲求を満たされず、悶々とした日々を送ってきたのだろう。上品な顔からは想像も付かない喘ぎを見せた。舐め回される事を心底喜んでいた。
触れてもおらぬのに蜜壺からはもう汁が溢れ、内股を伝って流れ落ちている。既に本気で感じている事は明らかだった。
「震えている」
俺がそう言うと、
「感じているの」
と目を閉じ答える。
「欲求不満だったのだな。溜まっているのだろう」
「そう」
女は両手で顔を覆い、恥ずかしそうに頷いた。
「どうして欲しいんだ」
「乳首を、早く乳首を触って下さい。気が、気が狂いそう」
その儘馬乗りになると、動かせぬ様に両膝で腰を固定し、そして両手で左右の乳首を転がす。色白の豊満な乳房は、上を向いて尖り、肌理細やかで美しい。ぴんと張り詰めた乳房は、若さを主張する様に弾力があり、湯水を弾く様な張りが有った。乳輪は小さく、薄い桃色をしている。暫く弄ると、堪らずもじもじとし始めるが、しかし俺は確りと固め動く事を許さない。右回りに、左回りにと丁寧に転がしつつ、時には三本の指で強く捻じったり、力を入れて摘まみながら引っ張ったりと、緩急を付けて刺激を与え続けた。鄒氏はその愛戯に合わせて厭らしい声を上げる。
ぴんと指で乳首を弾くと、
「あぅっ」
という、大きな声を上げて身悶え、殊更激しく反った。
愛しいと思う。
感じ易いこの女を、可愛らしいと思う。
この女性は掛け替えが無い、という錯覚に迄陥る。
しかし、俺はこの鄒氏と引き換えに、敵を殺す事を決めたのだ。恋した女とて利用する。俺はなんという 男であろうか。
俺は曹操を攻撃する為、この美しく若い族父の妻を曹操に与える事を決めた。曹操が鄒氏に溺れている間に攻撃を開始し、曹操を殺す事に決めたのだ。賈詡が提案した事とは言え、決定を下したのは他ならぬ俺である。
今快楽に喘ぐ美しい女は、恐らく死ぬだろう。それを思うと矢張り辛くなる。俺の力の無さの為に女を利用し、そして殺す事になろうとは。可哀想な事をすると、自分でも思う。心中で詫びる。悲しさが胸の内で溢れた。
策の為に女を殺す。俺も立派な卑怯者の仲間入りだ。以後はどんなに勝ち続けても、最早強き武人とは呼ばれぬだろう。死んだ族父、張済は、不甲斐ない俺を許して呉れるだろうか?
賈詡の話では、董卓の謀臣李儒はその昔、上官の首を落とし、その愛人を賊に差し出す事で隙を作り、窮地を脱したと云う。誉められた方法では無いかも知れぬが、切羽詰まった時であれば致し方無いとも言える。智謀に長けているとも言って良い。しかし今、俺が敵に差し出そうというのは、族父の妻であり、俺の憧れた美しい女なのだ。どおしてこれと較べる事が出来ようか。
俺には人を愛する資格が無いのだと思う。資格がある者は一度惚れた人を、己の利益の為に利用したりはしないし、殺したりなど絶対にしないだろう。では、俺にはどんな資格があるというのだろうか?
俺にあるのは、謀将を名乗る資格。「謀将の資格」それのみである。
そして俺に出来る唯一の贖罪は、今この瞬間に享楽を与える事のみなのである。俺は今、償いの意味も込め、淫蕩な女との性交を行なっているのである。これは殺す者としての義務なのだ。
俺は美しい人を四つん這いにさせる。女は尻を高く上げ、俺にその桃色をした綺麗な尻穴を見せた。尻穴はきゅっと小さく締まり、中央に向けて綺麗に皺が走っている。毛は薄く生え、その肛門の美しさを彩っていた。
両手で柔らかな臀部を持ち、深呼吸をする様に深くその匂いを嗅ぐと、排泄物の仄かな香りが鼻を刺激する。俺は肺をその香りで満たす様に何度も深呼吸をして、女の尻に鼻息をかけた。匂いを嗅がれている事の恥ずかしさと、その荒い鼻息の感触に堪らず突っ伏す。そして尻を左右に揺らしながら、
「舐めて。舌で触って」
と、強請る。それで俺は、舌先で軽く突付いた。
女は
「あん、あん」
と擽ったそうに尻を振ろうとするが、俺は固く抑え、それを許さない。暫く焦らす様にそれを続けると、
「もっと激しく」
と、こもった声で訴え身を捩る。
それで俺は左右に尻を開き、その穴に舌を入れ易い様にした。
予告無く、尖らせた舌を強引に尻穴に突っ込む。すると
「ひっ」
と女は反応し、それから快楽の為に床を掻き毟った。俺は一旦抜き、尻の皺一本一本をなぞる様に、丁寧に舌を這わせる。淫乱な女はこれに激しく喘ぎ、そして上を向き、懇願する様な瞳で
「意地悪しないで。お願い‥‥‥」
と言った。
それで俺は右の中指を立て、女の口に優しく入れた。指を女の唾液で良く濡らす。女はこれから起こる事に期待して、上気した顔を見せている。本当に好色な女だと思う。快楽の地獄に落したいと、そう思う。
そうした後、俺は女が潤滑の為に濡らした指を尻穴に当てる。そして焦らさず一気に突っ込んだ。指の内側を上に、奥の深い所まで刺し入れる。
「んぁっ」
という声を上げると、女は一度大きく仰け反った。
俺は構わず、回転運動を加えながら激しく指を抜き差しする。すると女は激しく興奮した。
それは、普段の凛とした様子からは想像も付かない乱れ方だった。
首を大きく振り、絶叫を始める。それは狂ったかの様な感じ方だった。
俺の指の動きに合わせて、声を上げ、首を振る。なんと艶かしい事であろう。自分から尻を押し当て、深く指が入る事を欲する。
「奥まで、奥まで入ってる‥‥‥」
と、喜びの声を上げる。
尻穴は痙攣し、俺の指を強く締め付けてくる。俺は手首を回転させながら、同時に指も動かし、出し入れを繰り返した。尻の中のぬめりが指に心地好い。しかしきつ過ぎて二本は入るまいと断念する。
俺の指を暫く味わった鄒氏は、
「早く‥‥‥。早く硬い物を頂戴。熱い物で突いて欲しい」
と遂に言った。今更だが、俺はこれに少なからず驚いて了う。
普段品の好い鄒氏が、こんな事を露骨に言うとは思わなかった。普段澄ましている女性が、恥ずかしさを棄て、この様な懇願をするとは思わなかったのである。日々、成熟した肉体を持て余し、悶々と性的欲求を求め続けていたのであろう。美しさの裏には、誰かとの結合を強く望む気持ちが隠れ住んでいたのだ。
「何処を突くんだ?」
と意地悪に言うと、
「ここよ。ここに熱い物を入れて!」
と、左手で滑った膣を広げ見せる。小娘のものの様に鮮やかな色をした唇は、綺麗に捲くれあがっていた。既にそこは煌めきながら大きな口を開け、待ち望んでいる状態である。
「熱くなって我慢出来ないの。滅茶苦茶に、して‥‥‥」
と潤んだ瞳で懇願する。
それは、本当に欲しくて欲しくて仕方が無いという様子だった。
それで俺は尻の奥に指を入れた儘、後背位で肉茎をそこに沈める。女が味わった事が無いであろう、両穴同時の行為を試みた。
女はそれを全く予想して居なかったらしく、
「駄目‥‥‥」
と一応言ったが全く抵抗は見せず、逆に指が抜けぬ様に穴を窄めた。
俺の肉棒が細い髄道を進む。尻穴の指で圧迫されている分そこは狭く、貫く物に絡みつく。
俺は腰骨の辺りに添えた左手に力を入れ、素早い出し入れを繰り返す。肉茎の張った部分が通る度、尻の中が狭くなり、指が刺激される。
「こんなのっ、あぅ、こんなの知らないいっ」
鄒氏はこれまでに味わった事の無い快楽に酔いしれていた。初めての快感に喜んでいた。
俺は一層腰を速く動かす。女も一層速く腰を揺らした。
女は、肛門で、玉門で、俺を強く締め付け、俺の物を刺激する。俺にねっとりと絡みつき、快楽を貪る。それは俺の物を温かに咥えて放さない。激しい蠕動運動で、確りと捉えていた。
「あぅ、あぅ」
という声を発し、俺を興奮させる。
その大量の愛液が、潤滑を好くし、更なる快感を与える。互いの息遣いが、互いを興奮させる。
そして遂に、
「あくぅ、うっ‥‥‥逝く、逝っちゃううっ、逝っちゃうぅー」
と、絶頂に達した。俺も同時に白濁液を中に噴出させる。
総ては終わった。
呼吸を整えると俺は、有頂天の儘痺れる女から離れ、女の顔を覗き込む。それは普段の理知的な表情ではなく、呆けた様な面だった。
恍惚としたその表情を見た時俺は、罪を償うには値せぬがと、心中で詫びる。
そして今。
今、本当の意味での覚悟が出来た事を悟った。
了
投稿者 strap : 02:08
