白沢図@白沢図A白沢図B白沢図C白沢図D白沢図E白沢図F白沢図G白沢図H |
恐る恐る私が問うと、 「これは奚嚢という罔象だ。二つの山の境目に生じ、小路を往く人を捉え喰う。山中深くで、突然人が失踪する事があるが、原因はこれにある事も多い。後学の為に、彼の足下を掘ってみようではないか」 と、恪は答えた。それで小人の立っていた位置を、兵に円匙で掘らせると、肉の溶けかかった兵の右腕と、無数の白骨が出て来た。人骨ばかりでは無く、鳥や蛙、鼠、獣、そこにはあらゆる動物の骨が、地下深く迄続いている様だった。 「これが奚嚢の胃袋だよ。数千年の内に餌食と成った人々や獣が、此処に眠っている。奚嚢はこの胃袋と離されれば、死んで了うのだ」 「しかし将軍はこの知識を、一体何処で? 」 私は尋ねてみた。 「うむ。黄帝は東巡した際、桓山という山に登った。その時、獅子に似た、人語を交す神獣が見れたのだ。この神獣は東望山に住み、王者が有徳で有れば出現する」 「確か白沢とか。森羅万象を識ると聞きます」 「そうだ。白沢は我々が知らぬ事を、その時多く語った。その時の話によると、精気が凝って物の形を為した精や、遊魂が変化して生じた妖怪が、人の世界にも大凡一万一千五百二十種あると云う。まあ大凡にしては、随分と具体的な数字だが、大体それ位存在すると言ったのだ。そうしてそう陳べた後、白沢はその一つ一つの特徴を、詳細に叙論した。その話を黄帝が図に写させ、解説を加えた物が、今日に伝わる白沢図である。俺は偶々これ読んだ事があったので、罔象の正体が判り、弱点も知っていたのだ。まあ、俺程の強記でなければ忘れていたであろうし、俺以外の者では、実行は無茶な危険であったろうがな」 と、恪は説明した。 |