白沢図@

白沢図A

白沢図B

白沢図C

白沢図D

白沢図E

白沢図F

白沢図G

白沢図H


 乙卯の年。その年の秋、臼陽県に於いて我々は、山間部の詳細な図面を作成する事を目的とし、演習を兼ねて巡回を行った。私が何度も、何度も語るあの不思議な事件は、この時起ったのである。この様な巡回は定期的に行われたが、やはり文事武備の恪らしく、それには常に彼自らが参加した為、人々は随分と緊張したものであった。それでも鬱々とした中の風は心地よく、少ない外出であったので、人々は心晴れやかで、何時もこの巡回を楽しみにしていた。無論、私とて例外では無い。乗馬の好きな恪も同様であったらしく、嬉しそうな表情で事に臨んでいた。尤もこれは、私達が彼の碁敵として不適格であった事も、理由の一つではあるだろう。

 奥に入り暫く進むと、斗折蛇行したのを見て、

 「伯先、これは注意をした方が良い。路が険しく先が見えない。不案内な我々では、賊と遭遇した時対処が難しい。ここで徂撃されては、我等は崩れ散るしか無いではないか。ここは方々に一度斥候を出し、一度安全を確かめよう」

 と、恪が私に謂う。確かにその時の隊列では、挟撃された際、前後間の連絡が分断され易く極めて脆い。それで私も成る程と感心し、八方に偵察の兵を出した。

 私達はそこで暫くの休憩をしていたが、そこに大慌てで先程出した偵察分隊の一つが戻って来る。緊急した事態だと悟った私は素早く立ち上がり、その伍長を待った。

 伍長は息を切らせながら我々の前に立ち、

 「子供の様な生き物が小路の真中におり、通る事ができません」 

 と、手短に報告した。それで私が、
 「子供の様な生き物では、何か判らぬ。猴か狙、狒狒猩猩の類いであろう。詳しく述べよ」 

と叱責すると、 

 「毛は生えておらず、手を伸ばして我々を捕らえようとしています」 

 と答えた。それを聞いた恪が、 

「二つの傾斜の境目に細径が在り、そこに脛の埋まった奚童の様な者が俟ち構え、警する様に居るのだな?そして近くには谿もあるのであろう 

 と聞けば、伍長は大きく頷く。
 「伯先、どうやらこの辺りには、厄介な者が住み着いている様だな。恐らく賊は居ないぞ」

 と謂い、恪は私を見る。

「では少し安全な処を廻り、引き返しますか? 」

と問うと、

「否、厄介な奴が居るのだ。俺の在任中にあの様な者が居ては、俺の名に係わる。全く迷惑な話だ。矢張り殺して了おう」

 と笑った。そして、

 「まぁ、俺も其いつを診てみたいしな。百聞一見、博学篤志。見識を広めるとは、こういう事だ。この様な珍しい物も看れるので有るから、能の無い前任者共にも感謝すべきかも知れぬな」
 と続けて謂うので、私も「然るべく」と、返事をするしか無かった。

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