濃醪@濃醪A濃醪B濃醪C濃醪D濃醪E濃醪F
呉書シリーズ@
|
こうして私は恪を輔佐する事を決心し、誰もが失敗すると考えた仕事を達成させた。私の目を醒まして呉た鄭氏には深く感謝している。後の私の出世は、この時の仕事が高く評価されての事であったから、私にとってはこの決意が、人生の大きな分岐点であったと言えるだろう。 鄭氏は死後遺言の為、陶器作りの家の傍に埋められた。百年の後に土と化して、酒壷に生まれ変わるのだという。何と彼らしい発想であろうか。 鄭氏が没してから先、我々は腹の底から笑う事は些なくなった。年を追う毎に、政治は乱れてきている。今年も「呉を滅するは、公孫の姓」という流言の為、罪無き人々が年齢に拘わらず処刑された。 今の軍を動かしているのは、卜占の結果だ。財政的にも破綻寸前で、満足な戦費が捻出できないにも拘わらず、出兵させられる。計画の無い軍事が、成功する筈も無い。戦死した将兵達は皆、無駄に命を散らした様な物だ。諫言をすれば、顔の皮膚を剥がれるか、目玉を抉られる。この様な情勢の中、私にはこれからの未来を明るい物と考える事はとても出来はし無い。鄭氏を懐かしむ度に、その思いは強くなる。 我々が向かう先は、一体何処なのであろう。何処に流されて往くのだろう。一瞬の破滅だろうか?永劫の苦痛か?進むその路も、光明無き闇の中なのだ。我等が手には、闇路を照らす灯影も無く、唯々、現実の重みが伸し掛るだけである。この様な時にこそ、「験なき物を失くす智慧の水」を呑むべきであろう。この世の憂いを一時でも忘れ、深く眠るが賢明である。こうして耐えるより他は無い。 その、「智慧の水」に頼る度に又もや思い出す。 常に明るい未来を示して呉れた人は、今はもういない。 了
|