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「では矢張り悩み事なのではないですか!」

「小さな事に噛み付く奴だなぁ。それは左将軍にとってさ。お坊っちゃんの狙い自体は悪く無い」

 恪の提案は、防備を固め、作物を隠れ潜む人々に渡さないという物だった。これで餓えさせれば、干戈を交えずとも征伐ができると言うのだ。

「しかしでは何故、上手くいかぬのでしょうか」

 私もここで一杯呷って尋ねてみた。鄭氏は好きな割に強くは無いので、山梨を齧りながらゆっくりと舐めていたが、私の質問に答える為に急ぎ呷る。

「徹底出来ぬからだ。如何に計画が優れていようとも、実行でき無ければ失敗するのは当然の事だよ。左将軍は己の倅に実行能力が無い事を御存知なので、御趣味を満喫されている訳さ」

「では何故、実行出来無いのでしょうか」

 私は尚も訊ねる。この質問に対し、鄭氏は真剣な顔をし、そして大きな声で答えた。

「それは。それは、それを補佐すべき君が、彼の明敏性を信じていないからだ!繰返し言うが、如何に優れた立案とて、実行が伴わねば上手くはいかぬ。実行を補佐する者が成功を疑っていて、どうして良い成果を残せようか!君が本気にならぬ限り、成功する物も成功しない!」

 何という言い掛かりであろうか。私はそう憤慨し、

「失敗をすれば、それは私の責任でありましょうか!」

 と声を荒気て了った。それに対して鄭氏は穏やかに答えた。

「伯先。君は未だ、自分が如何に恵まれた立場を手に入れたのか、それが判ってはおらぬ様だな」

「恵まれているですって?とんでもない!誰がこの立場、羨むと謂われるのでしょう」

 私は若さの余り、怒りを露にして叫んでしまう。しかし鄭氏はそんな私を視て笑んだのだ。

「君の謂うとおり、皆君には同情的だ。皆、君は我が儘に付き合わされ、生け贄にされたものだと考えている。若し左将軍の御子息が失敗されても、君に責任の追求は及ぶまいよ」

「では何故、恵まれた環境などと申される」

「だからさ。君は失敗しても責任は少なく、成功すれば大きな功績と成る。そんな地位を手に入れているのだ。しかも本気になりさえすれば、それは成功するかも知れない。これ程甲斐のある地位は、そうそうは無い物だがね」

 こう言われて発と気が付いた。確かに、その時の私はこういう立場なのかも知れぬと、初めてそういう認識を持たされたのだ。今考えると簡単な事であるが、当時の独り思い悩む私には、全く到達出来ぬ視点であった。鄭氏は醪を呑み、そして続けた。

「抑々、撫越将軍諸葛恪が、何故君を己の丞に望んだか解るかね?人不足ばかりが原因とでも?彼とてああ言ってはいるが、この仕事の難しさは知っているにも拘わらずだ。人事には気を使った筈だよ」

 確かに恪とて、口では簡単だと言ってはいたものの、その困難さは充分に理解していた事だと思う。

「それは、君の人心掌握の能力を、高く評価しているからでは無いのかね?任務遂行に当って、己に足りない物を知る彼は、そこを補ってくれる人を強く求めたのだ。男として、これに応えぬ訳にはいくまいよ」

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