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三国志小説論

 

「曹公の治めた魏国とは、どの様なところだったのでしょうか?」

 少年の残酷さで、私はこう、于将軍に尋ねてみた事がある。将軍の強い望郷の念を知っていたならば、出来た質問では無かっただろう。

 私の問いに将軍は一度だけ唸り、そして

「平坦で長閑な風景の中に、山らしくある山、丘らしくある丘、川らしくある川と、豊かな自然が混在している風靡な土地だよ。雲は美しい形を毎日違えて見せ、その形には何とも言えぬ趣がある。空は抜けるように青く、地は雄大で、風は頗る心地好い。雨が降り過ぎる事もなければ、日が照り過ぎる事も無い。暑過ぎる事も無ければ、寒過ぎる事も無く、大変に心地好い。風光明媚な上に過ごし易い、暮らすには理想的な土地だ」

 と、少し懐かしそうに答えた。

 今考えると于将軍は、雲の形にまで「美しい」という表現をしている。帰郷を願う人は皆、異常なまでにその土地を美化させたがるが、これは望郷の念としては、かなりの重度の美化であろう。

「その様な事よりも、曹公自身の治国はどうだったのです?」

 と、私が聞くと、

「人々は皆勤勉で、田畑を耕す事に喜びを覚えている。兵達は屈強で、軍規に乱れなく、訓練を拒む者はいない。食料の不足も無ければ、他の禍の種も無く、皆がにこやかな笑顔で暮らしていける理想の場所、と、そうなりうる地だと思う。魏王もそう思われているが故に、その実現の為の勤勉を惜しまれないのだよ」

 と答えた。

「伯先。私はここを悪い土地だとは謂わぬが、しかし捕らわれの身であるし、懐かしい人もいない。気候も何だか古傷に痛むし、水の味が馴染まない。だから、私にとっては中原こそが最良の土地なのだよ」

 と寂しく謂う将軍の顔を見た時、初めて私は将軍が故国を酷く懐かしんでいる事を知った。そして、我々との生活が、将軍にとっては苦痛である事も。

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