故国@故国A故国B故国C故国D故国E故国F故国G
呉書シリーズ@
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「静かに」と今述べたが、しかしそれは静かに感じただけで、実際の音量の事では無い。将軍の肺活量と、篳篥の精度の為、騒がしかった空間全体に、その調べは届き亙った。人々は皆、その美しい旋律に気付き、思い思いの動作を止め、自然と将軍の篳篥を愉しむ事になった。 静かに始まったそれの優美さに、人々は皆、雅を感じ、その涼しさを味わう。清涼感すら溢れるその音色はどこか楽しげで、心地好いと思うほどなのだ。私も、場にいる他の人も皆、于将軍の腕前に驚いてしまった。それは無骨な音楽を想像していた我々の考えを、全く打ち砕くもので、腹の底から勇気が湧いて出る様な、そんな優しくも勇ましい、何とも陽気な曲であった。場の空気がうねる様な感じという表現で、お解かり戴けるだろうか。正しくその様な感じであった、としか謂い様が無い。 于将軍の指は、一見ゆっくりと、しかし実際は恐るべき速さで、即興の楽曲を紡ぎ出していった。将軍の真面目に過ぎる性格が、基本的奏法を反復して練習させた為であろう。将軍の演奏は、基本に裏打ちされた確かな技術を基とした、大変素晴らしいものであった。 我慢が出来なかったらしく、最初に?を担当する楽師が演奏に加わると、琵琶が入り、笙が入り、打ち物が入り、筝が入りと、次々と多くの楽師達が将軍の演奏に加わっていった。将軍の演奏には、そういった気安さがあり、そして誰もが思わず参加したくなる様な、そんな不思議な魅力があったのだ。虞小父でさえ、「やられたな」という顔で、笑いながら酒を煽り、于将軍の音楽に酔う事を楽しんだ位だった。 多くの楽師達が加わり合奏となると、于将軍は音量を落とし、主旋律を他に任せ、周りに合わせる様な吹き方に変更をする。それでも于将軍の篳篥は、要所要所で存在感を示し、滾々と美しい伴奏を繰り出した。 この頃になると、場にいる人に、愉しげな表情をしていない者は、唯の一人しかいない、という状態だった。無論その一人とは、無表情な于将軍自身の事である。 席にある人皆が、にこやかな表情をしていた。誰もが楽しんでいた。 演奏に体を動かさずにおれる者等、最早唯の一人もいなかったのだ。 私は、こんなに皆が愉快に笑って聴いた演奏を、他に知らない。 演奏が終わると、皆は一瞬遅れて喝采し、于将軍と提案をした虞小父には、褒美までが出される事になった。私は于将軍に、演奏が素晴らしく感動をしたと、興奮気味に伝えたが、将軍は 「捕虜が仕方なく小手先の技術で吹いただけだ。感動する事など一つも無い」 と、素っ気無く応えたのみであった。
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